ホームドア設置コストは1駅4~5億円

駅別の統計を見ると、2024年に人身事故があった駅のほとんどがホームドア未設置だ。ホーム転落事故の特効薬はホームドアだと数字が示している。

先ほど紹介した「ホームドア整備に関するWG」の報告書でも、ホームドアを整備した東京メトロ丸の内線と有楽町線で、乗降時に誤って転落したケース以外の転落事故は発生しなかったという成功事例が紹介されている。

しかしその設置が間に合わない。大都市圏では膨大な駅数があり、予算も限られている。乗客数が少ない駅は後回しになる。

ホームドア設置コストは1駅当たり4億円から5億円、ホームによっては重量物のホームドアを設置するため、構造計算をやり直し、基礎工事や補強工事等が必要だ。その場合は10億円以上もかかるという。円安により資材が高騰し、制御用の半導体不足でホームドアそのものが調達困難だ。

終電から始発までの夜間工事になるため工期が延びる。通勤電車は0時を過ぎても走る区間があり、始発は4時台の区間もある。資材の運搬、始発列車前の安全確認も含めて、作業時間は2時間程度しかない。保守要員の増員も追いつかない。

収入増加にはならないが収入維持にはなる

鉄道会社にとって、ホームドア設置費用は収入増につながらない。たとえば、並行するライバル路線があるとして、乗客は「ホームドアがある安全な路線に乗ろう」とは考えない。しかし、安全策は無視できない。転落事故によって運休すれば収入が減る。ホームドア設置は収入を維持するためのコストである。

国は「1日あたり利用客が10万人以上の駅」でホームドア導入を急ぐ方針を示した。収入に結びつかないコストだから、まずは利用客の多い、つまり売上のある駅を優先したらどうか、という指針だろう。

さらに、2021年から「鉄道駅バリアフリー料金制度」を創設した。ホームドアに限らず、エレベーター、スロープなどの費用を運賃に上乗せすることを認めたのだ。鉄道会社は整備計画を国土交通大臣に届け出て、毎年、進捗状況を報告する必要がある。