日本風に土下座をして説明すべきかどうか

投資家向けロードショー(説明会)を再び行うため世界を飛び回った。みんなカンカンに怒っていたが、「よく聞いてくれ」と粘り強く諭した。

「3月の株主総会で特別決議を取る時に言ったように、今回の増資はちゃんと日本を代表する伊藤忠商事にも5%出資してもらう。それと、ライツオファリングと同じように、既存株主が好きなだけの株式を買えるように最大限の努力をする。発言した通りで何の問題もない」と言い続け、最後は皆、納得してくれた。

日曜日にスイスに飛び、月曜日にジュネーブとチューリッヒの投資家を回り、火曜日は一日中ロンドンの投資家に説明、夜行便でボストンに飛び、水曜日はボストン、木曜と金曜はニューヨークの投資家を回り土曜日の直行便で東京に戻る。「もうこうなったら地球を何周してでも世界中の投資家を納得させてみせる!」。そんな思いだった。

でも、2009年のプロジェクト・リンドバーグの際に何十億円もの新株を買って、救世主となってくれたボストンのフィデリティ訪問だけはものすごく気が重かった。ギリシャ・ショックがあったとはいえ、わずか半年で何十億もの含み損を抱えさせてしまったので……。会議室に入るなり、日本風に土下座をして説明すべきかどうか、前の晩ホテルで真剣に悩んだ。

死闘の25カ月の末、生存確率が100%に

ところが当日、ものすごく緊張しながら会議室に入ると5人のファンドマネジャーがいきなりこちらを向いて握手を求めてくるではないか! いったいどういうことなのか理解できないでいると、「お前は約束を守った。日本初のライツオファリングやってくれるらしいね。だったら好きなだけ買うよ。その代わりもっともっと大きくなれよ!」。

これはうれしかった。もちろん向こうはプロの投資家だからたくさん儲けたいのはわかっていたが、それにしても彼らの懐の深さには感動した。涙が出た。

こうして何とか無事に150億円の償還資金を捻出することができた。

川島敦『100兆円の不良債権をビジネスにした男』(プレジデント社)

その同じ頃に、横浜市の新横浜たあぶる館(現・タノシオシンヨコハマ)などを韓国の投資家に約100億円で買ってもらった。さらにシンガポールの投資家に老人ホームをいくつか売却して真水をつくった。その結果、2010年6月の運用資産残高を示すAUM(アセットアンダーマネジメント)が初めて1兆円を超えた。

業績のほうは2007年の社長就任時は146億円の史上最高益、2008年は108億円の赤字、2009年は184億円の赤字。何としても2010年は黒字にしたかったが、リーマン・ショックの爪痕は深く、残念ながら25億円の赤字に終わった。しかしこれ以上は大きな返済の山もない。やっと生還できた! 死闘の25カ月の末、ようやく生存確率が100%になったのだ。

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