球場入りして挨拶をする順番は常に決まっている

私が試合前に球場入りしたとき、挨拶をする順番は常に決まっていました。

王会長がいらっしゃったら、王会長にまず挨拶をします。その後は近くにいる選手に声を掛けながらバッティングゲージのほうに向かい、そこで集まっている野手陣とコーチに挨拶。続いて、外野で準備運動をしている投手陣のもとに向かい、一人ひとりの選手とコーチに挨拶をします。

孫オーナーがいらっしゃったらもちろん、真っ先に挨拶しますし、2018年以降は、王会長に挨拶した後は、コーチングアドバイザーとして加わった金星根さんに挨拶をするようにしたりと、自分より役職が上の方に対する挨拶の順番は細かく変わったりはしましたが、基本的には大きな流れが変わることはありませんでした。

繰り返すと「まずは役職が上の方に挨拶→バッティングゲージのほうに向かう中で、近くにいる選手に挨拶→バッティングゲージの周りにいる野手陣・コーチに挨拶→外野にいる投手陣・コーチに挨拶」といった流れです。

選手の中で、とくに「この選手から挨拶する」といった優先順位はつけませんでした。ざっくばらんにいえば、さきほど述べたように「近くにいた選手から挨拶をする」という、本当にそれだけのことです。

ここにも、私なりの意図がありました。

コミュニケーションに必要以上に意味を持たせない

たとえば、ある選手のエラーが致命傷となり、前日の試合で負けてしまっていたとします。

工藤公康『プロ野球の監督は中間管理職である』(日本能率協会マネジメントセンター)

今日の練習前、私が真っ先に、その選手に挨拶をしにいったら、彼はどう思うでしょうか。

「ああ、おれが昨日ミスして試合に負けたから、監督はそれをずっと気にしていて、今日はまず、おれの様子をうかがいにきたんだな」と感じるでしょう。

中には、「監督に気にかけてもらっている。今日は昨日のミスを取り返して、監督に心配かけないようにしよう」と意気に感じる選手もいるかもしれません。しかしそれでも、負けるたびに、その負けの原因をつくった選手から翌日に声をかけにいくのは、やはり異様でしょう。

それならば、前日の試合で活躍した選手から声をかければよいのか。

そういうわけにもいきません。目に見えて活躍した選手を優先すると、目立たないプレーでチームに貢献している選手や、不調の選手が疎外感を持ちかねないからです。

結局のところ、「近くにいた選手から順番に声をかける」がベストなのです。

私が選手とのコミュニケーションをとるのは、選手の「背景」を知るのが目的です。特定の選手と仲良くなるためではありません。

選手が自然に、自らの「背景」を話しやすい環境をつくるには、監督も自然に、「近くにいる人から声をかける」くらいの軽い意識で挨拶をしていたほうが、おそらくプラスに働きます。

挨拶の順番に、下手に「意味」を持たせると、その「意味」を勘ぐられてしまうからです。

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