選手とのコミュニケーションのあり方を改めようともがいた

まずお話ししておきたいのは、私は決して、「監督と選手は、何が何でもとことん対話すべきだ」とは考えていないということです。

もしかしたら、「普段はあまり選手とコミュニケーションを交わさず、でもいざというときに的確な声を掛けることで、選手のモチベーションやポテンシャルを引き出す」という監督の形もあるのかもしれません。ただ、2016年当時の私には、「選手とどのようにコミュニケーションをとるのが、勝ち続けるチームをつくり上げるために有効なのか」というノウハウがまったくありませんでした。

私の中にあったのは、「とにかく今のままではいけない。コミュニケーションのあり方を改めないといけない」という気持ちだけです。ここで記すのは、そんな私が、必死にもがきながらなんとか見出したコミュニケーションです。

コミュニケーションのあり方を改めるにしても、どう改めるのか。私が思い至ったのは、「まず、選手のことをもっと知らなければ」ということでした。

相談に来るのを待つのではなく、自分から声を掛ける

就任してから2年目を終えるまでも(つまり私が「コミュニケーションのあり方を考え直さなければ」と思い知る以前も)、私は選手たちに、「話したいことがあったら、いつでも遠慮なく声を掛けてね」とは伝えていました。「選手たちと密にコミュニケーションをとりたい」という気持ち自体は持っていたのです。

しかし、進んで私とコミュニケーションをとりにきてくれる選手はごくわずかでした。考えてみれば当然です。こちらがいくら「ウェルカム」の姿勢を示しても、監督は監督。選手にとってみれば上司であり、気を遣う存在です。好き好んで本心を話しにきてくれる選手は、そうそういません。

「話したいんだったらきていいよ」という「待ち」のコミュニケーションでは、「選手を知る」という目的は果たせないのです。

また、就任当初の2年間は、私のやり方を押し付けていたこともあり、内心で「なんなんだこの監督は」と思われて避けられていた部分もあったのかもしれません。

私は、「選手を知るには、監督である自分から、選手に声を掛けて話を聞かなければならないのだ」と考えました。

私は選手の何を知りたいと思ったのか。それは、選手の「背景」です。

プロ野球選手としての生き方や、練習への姿勢、試合に懸ける思いには、選手の背景が大きく影響します。

いつから野球を始めたのか。学生時代はどんなチームでプレーしていたのか。どのようなポジションを守る、どのような打者だったのか。出身地はどこなのか。どのような家族のもとで生まれ育ったのか。どのような性格なのか。奥さまはどのような人で、どのような家庭を築いているのか。日々の生活の中で大切にしていることは何か。今、困っていることは何か。どのような夢を持っているのか。

このような、選手の「背景」をひとつでも多く知ることができれば、練習や試合の中で、その選手に合う環境を整えることができ、試合でより高いパフォーマンスを発揮してくれるのではないか。私はそう考えたのです。