核があるからウクライナ戦争が起きた

昨年の広島原爆の日の式典挨拶で、湯﨑英彦知事がまさにこのことを述べています。

広島県 知事 湯﨑英彦(写真=内閣府 地方創生推進室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

〈ウクライナが核兵器を放棄したから侵略を受けているのではありません。ロシアが核兵器を持っているから侵略を止められないのです。核兵器国による非核兵器国への侵略を止められないという現在の状況は、「安定・不安定パラドックス」として、核抑止論から予想されてきたことではないですか〉

湯﨑知事は「だから核抑止は無意味になった」と述べているのですが、私からすると「核抑止は昔と同じ欠陥を抱えながら大国間戦争を防止するという役割だけは変わらず果たし続けている。そうであるがゆえに安定・不安定パラドックスのような面倒な現象が起きるのだ」という話なんですよね。

ロシアの軍事ドクトリンは戦争を四つの段階に分けてとらえています。①最も大きなものが大規模戦争(第三次世界大戦)で、以下、②地域戦争、③局地戦争、④武力紛争と分類しています。

ウクライナとの戦争は、局地戦争と地域戦争の間くらいのとらえ方で、核があるゆえにこの段階の戦争がかえって起きやすくなっている面はあります。核を持っているからこそ、核を持っているアメリカの介入を受けないだろうと予見してしまう。だから紛争や局地戦争に及ぶ。

日本にとって「対岸の火事」ではない

【小泉】核兵器にはいろいろな効果があって、実際に戦場で兵器として使うだけでなく、相手の攻撃を抑止する効用もあり、強要や駆け引きに使うこともできます。

先行研究では、「核で脅して言うことを聞かせる」ことは難しいが、「核で他の超大国を牽制しながら、核を持たない相手に武力行使する」ことはできてしまうと分析されています。これがまさに今、ロシアがやっていることです。

――核を持つ超大国に囲まれた小国はやられ放題になってしまう可能性があるとなると、日本も無視できません。

【小泉】重要なのは、「既存の核戦略理論はあくまでも超大国間の安定に関するものであって、超大国ではない日本にそのままあてはまるものではない」という点です。

超大国が安定しているという戦略レベルの話とは別に、日本は地域レベルの安定も考えねばならない。超大国の安定と、地域レベルの安定の二つが揃わないと安定・不安定パラドックスが生じてしまいます。そうならないために、日本としては地域レベルの抑止をきちんと、自分たちの力でやらなければならない。