※本稿は、多田将『核兵器入門』(星海社新書)の第4章「核兵器と国際政治」の一部を再編集したものです。
さまざまな状況で核の使用準備ができているロシア
【多田】現在のロシアやアメリカ、あるいは他の核保有国で、それぞれどのような使い方が考えられているのでしょうか。本当に戦略やシナリオを用意していて核兵器を使う気があるのか、あるいは実戦使用は真剣には考えていないのか、という点をご説明いただけますでしょうか。
【小泉】核兵器の使い方に関して、想定しうるやり方を全部備えているのはロシアだと思います。というのは、彼らは世界で2番目に長く核兵器を持っている国であり、アメリカと並んで世界で最大規模の核兵器を持っています。ロシアは核兵器を運ぶ運搬手段も飛行機やミサイルなど、考えうるものは一通り持っています。
【小泉】やろうと思ったら何でもできるし、何でもできる以上はだいたい何でも考えてはある、そう思っておくべきだと思います。そこで問題になってくるのは、いわゆる核戦略には「宣言政策」と「運用政策」があるということです。
俺はこういう時に核を使うぞ、だからやめた方がいいぞと相手にメッセージを送るための核使用の政策が前者で、実際に戦争になったらこうやって核を使おう、と思っているやり方が後者です。
ロシアが核を躊躇なく使うとき
【小泉】後者の、本当に戦争になったときにどうするかというのは、もちろん公表もされないし、さらにいうと外部から見て分かりやすい形で記述されてもいません。恐らくターゲットのリストや、どの手段でどのターゲットを狙うのかという具体的な作戦計画として作られているものなので、例えばこういうときにこう核を使いますという分かりやすいお品書きのようなリストはきっと存在しません。
分かりやすいお品書き方式のリストがあるのは宣言政策だけです。ロシアの場合に関しては、従来は一つだけ知られていました。それは「軍事ドクトリン」という文書で、2つの基準が書かれているのです。
ざっくりいうと一つはロシアに対して大量破壊兵器が使われた場合で、そのときは遠慮なくこっちも核を使いますよ、と。
もう一つは通常兵器による攻撃だとしても、ロシアが国家存亡の危機に陥ったときにも核を使いますよ、と。この2点が2000年の「軍事ドクトリン」で初めて明確に示されて、それ以来ちょっと表現は変わったりしているのですけど、後の2010年バージョン、2014年バージョンまで踏襲されています。