2020年に加えられた使用条件

【小泉】さらに2020年の6月に「核抑止分野におけるロシア連邦国家政策の基礎」という文書が公表されています。これを見ると、「軍事ドクトリン」に書いてある2つの核使用のケースに加えてもう2つ、ロシアが核を使う可能性が付け加えられています。

ひとつはロシアの戦略核戦力の機能を損なうような、攻撃を含めた幅広い干渉があって、そのせいで戦略核戦力がダメになりそうだったら使います、と。

もうひとつは核弾頭をつけた弾道ミサイルが明らかにロシアに向かっているときで、この4つくらいのときに核を使うとロシアははっきり言っています。同時にこの文書には「核抑止の一般的性質」という章が設けられています。

その中で、ロシアがそうするとは一言も言っていないのだけど、一般的に核兵器というものはこういう使い方をしますよね、という核の使い方一覧リストみたいなものが掲げられています。

そこには、例えば国家存亡の危機になっていなくても核を先制的に脅しのために使う、とかいった使い方も入っています。ですから、ロシアは宣言政策としては4つくらいを明示して、ロシアがある程度追い込まれたときだけ核を使うと言っていますが、実際にはいろんな使い方を承知しているわけです。

ロシア国旗を背景に浮かぶロケット弾
写真=iStock.com/bymuratdeniz
※写真はイメージです

北朝鮮の合理性

【小泉】それらが本当に参謀本部がつくった核のターゲットと攻撃手段のリストの中に含まれていないかというと、実はあるんじゃないかと思います。そういう使い方を想定していないことはないと私は思うんだけど、少なくともロシアはそういうふうに言っています。

そして多分これは、アメリカや中国も同じなんだと思います。どこの国も、外向けにいうことと実際に軍の核運用部隊の人たちが作っている作戦計画とはだいぶ違うのではないかと感じます。その点でいうと、北朝鮮なんかは正直なのではないかと私は捉えています。

彼らはできることの幅がそんなに大きくないので、かなり宣言政策と実際にやることの一致が大きいのではないでしょうか。つまり北朝鮮の場合は最小限抑止なんですね。

大規模な核攻撃を受けたら国家がもう持たないというレベルの損害、国民の3割が殺害されるとか、工業力の5割が破壊されるみたいな、そういう損害を受けた場合でも、相手にそういう損害を与える能力は北朝鮮には明らかにありません。

でもアメリカに対して受け入れがたい損害、つまり別に国家は崩壊しないんだけれども、まっとうな人間として、あるいは政権が政権維持を考える上で許容できないような損害、例えばニューヨークに核弾頭が落ちて100万人死ぬとか、そういうレベルの損害を与える能力を持っていれば事実上抑止として機能するだろうという考え方があって、北朝鮮はそこを目指して非常に合理的に核戦力を作っていっているな、という印象を私は持っています。