住宅需要が急激に増えたことで、住宅価格も高騰した!
こうした施策には、副作用もある。例えば、住宅支援プログラムのせいで、一部で需要が供給を上回り、住宅価格の急騰が起こったのだ。これについては、同博士はこう話す。
「政府は随時、住宅価格にあわせた支援額を調整する努力をしています。ただ、不動産価格が高い西部とそうでない東部に格差ができたことが課題ですね。例えば、オーストリアに近い西部の人気エリアに家を買った人は家を売却して、自分の仕事やライフパスにあわせて引っ越すことができますが、そうでない地域に家を買った人は、家が売れずに移動ができません。自由に移動できないと、自分の職場に近いところに住めなくなる労働者が出てきます。これは労働者本人にとっても、雇用する企業にとっても大きな問題になり得ます」
外国企業がハンガリーに続々と工場を開き、ハンガリーがヨーロッパの製造ハブとして発展していくなか、労働者が自由に動けないと人々はより高い収入の職につけないし、ビジネスも広がらない。
「ハンガリーの異次元の少子化対策」と日本で呼ばれている、経済インセンティブや住宅支援プログラムは一部にこうした課題が残るものの、出生率を上げるだけでなく、国内の雇用を生み、失業率を下げて、貧困層を減らすことに成功した。その上、人口流出を防ぐ目的もあるハンガリーの家族政策は、「経済安全保障政策」でもあると言えるだろう。
財源は27%もの消費税!
ハンガリー政府はGDPの6%を家族政策に費やしており、これは世界一だと発表している。一体この財源はどこから来ているのだろうか。
「いまのところ27%の消費税が財源となっています。この高い消費税で、税収が増えました」と説明するヴァシャ博士。27%の消費税は世界一高く、これにスウェーデン、デンマーク、ノルウェーの25%、アイスランド、フィンランド、ギリシャの24%が続く。
日本で消費税を27%にしようものなら、政権交代が起こってしまうが、この高い消費税について国民の反応はどんなものか。ある中間層に聞いてみると……。
クオリティオブライフが高いハンガリー
ブダペスト郊外に住む40代の女性会計士には共働きの夫と、5歳と8歳の子どもがいる。
「生活は楽ではないです。確かに、保育園から高校まで公立なら学費はほとんど無料ですが、子どもたちの英会話クラスやスイミングクラスなどにはお金がかかりますし、服代もかかります。だから、もっと給料のよい外資系の会社に転職するために、いま私は英語を猛勉強中です」
消費税が高いせいで、通常のショッピングや外食はできるだけ抑えなくてはいけないものの、毎週末、家族全員でスポーツやピクニックなどに出かけている。夏は2週間の旅行に出かけ、冬はスキー旅行に行く。こうして休日は家族全員でアクティビティを楽しむのが一般家庭の日常だそうだ。
ハンガリーでは保育園から高校まで無料。待機児童も存在しない。大学の学費は高校卒業時に受ける共通試験の成績により、無料でとれる単位が決まる。日本のような受験制度がないから塾もない。
ハンガリーの1人当たりの家計収入は日本の半分ほど(2023年:日本は約246万円、ハンガリーは約128万円)だが、生活の質は日本よりずっと高いように映る。
ただし、この女性の言う通り、ハンガリーには国内産業があまりないので、高収入を目指すには英語力は必須だ。小学校から英語が必須科目となっているが、教育熱心な親は幼稚園の頃から子どもに英会話レッスンを受けさせる。そのせいか、筆者が取材した15人以上の学生は全員が流暢な英語を話せた。
しかし、そもそも40代半ばの子どもを2人もつ女性がフルタイムで働き、転職できる雇用環境が日本とはまったく違う。会計士の女性は「私の知る限り、40代はもちろん50代の女性でも転職はできますね。最近では1~2年で転職をする人が多いぐらい雇用の流動性が高く、仕事はあります」と話す。
日本では、2026年から段階的な子ども・子育て支援法が施行され、これら支援金は公的医療保険に上乗せ徴収される。昨年6月に岸田文雄首相は、GDPの約2%だった「家族関係社会支出」を4%に倍増すると発表したが、子育て家族だけではなく、ハンガリーのように“国民全体”が恩恵を受ける包括的な政策が必須だ。そうでないとシングル世帯は不公平を感じ、若者はますます日本国外へ流出するだろう。
同時に、「子どもをもつことが“リスク”にならない」「何歳になってもキャリアアップや転職ができる」社会の仕組みを作らなければ、若者が希望をもてる国にならないのではないだろうか。