ライドシェアは構造的な人手不足解消の手段

タクシー運転手が減少し、足りないというのなら賃金をあげれば人材は簡単に確保できるはず、という向きもあるが、それは若年労働力が豊富にあった過去の時代のことだ。不足しているのは職業運転手“全体”であり、タクシー賃金が上がれば公営バスや大型トラックの運転手がタクシーに流れて、いっそう不足することになる。

またタクシー運転手には60歳以上が4割で、70歳以上が2割強を占めるという高齢化も深刻だ。「コロナによるタクシー運転手の一時的な不足」というのは印象操作に過ぎない。高齢による引退で、2022年までの10年間で、年平均1万3000人の減少が続いている構造問題である。

今後も、高齢運転手による事故のリスクだけでなく、大量の引退は避けられない。そうなればタクシーだけでは、十分な運行サービスを供給できない、全国の交通空白地が広がるだけだ。また都市部においても、観光客の増加で交通難民がいっそう増えるだろう。

タクシーは、バスやトラックと比べて、働く時間によって稼働率に差が大きく、それだけ無駄な待ち時間が避けられない。このため運転手の収入を確保するために、地域ごとのタクシー台数を抑制し、乗客の増える深夜などの時間帯には客に長い列を作らせることで利用者に負担を強いてきた。都内のビジネスパーソンもきっと心当たりがあるに違いない。

この点で、本来の業務などの傍ら、副業で行うライドシェアは、潜在的に大幅な供給余力を持っている。また、遊休時間がない点で時間当たりの生産性も高い。今後の労働力不足が深刻となる日本社会では、副業・兼業による人材の有効利用を図らなければ必要な労働力は確保できない。

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ライドシェア法制の早期制定を

現行の日本型ライドシェアは、競争を制限するタクシー制度と一体的で、「公共の福祉の確保のためやむを得ない」場合に、個別に許可を得る制度である。いくら制度を全国化しても、地元のタクシー会社の了解が必要とされるなど、制度を運営する個々の市長(首長)などの熱意に依存するため、交通空白地の解消にはほど遠いだろう。

そのため、全国的なデジタルネットワークを持つプラットフォーム会社が、潜在的なドライバーを組織化しつつ、事故などの際にも責任をもって対処できる法的な仕組みが必要とされる。

また、現行では必要なルールが、ほとんど通達で定められているのも“障壁”となっている。通達式は国土交通省には都合がよいが、タクシー業界からの圧力にさらされやすい。新たな交通主体であるライドシェアには、デジタルによる遠隔管理や乗客の安全管理など、現行のタクシーとは異なる別途の安全規制が必要である。革新的なライドシェアには「法律による行政の原理」からも、通達でなく新たな法律で速やかに定めなければならない。