SIerのエースは多くの経験を積んでいる

一方、2010年以降になると、2008年のリーマンショックの影響もあり大規模なシステムの新規開発や大規模なリニューアルはめっきり少なくなり、逆にみずほ銀行のシステム統合の失敗のような事例が見られるようになった。

そうした状況では、システム全体を企画したり、システム全体を俯瞰してみるような大規模なプロジェクトを運営したりするような経験が積みにくくなっている。

簡単にいえば、今の40歳以下の世代は、細かく分けられた業務を割り当てられただけで、システム開発の全体を理解するための十分な経験が積めなくなっているのだ。

それでも、ユーザー企業の情報システム部門は、すでにあるシステムの維持・運用やちょっとした改修しか経験したことがない場合が多いが、SIerのエースは(もちろんSIerで働いている全員ではない)、数年ごとに新しいプロジェクトを渡り歩くため多くの経験を積むことができる。

こうして経験という面でも、ユーザー企業とSIerの間には埋められない差が積み重なっていく(参考:「「プッチンプリン」の出荷停止に、ゆうちょ銀行の入金遅延…日本企業でシステムトラブルが相次ぐ根本原因」)。

システムは統合してはいけない

システム開発は基本的には、一品モノだから一つ一つのシステムごとに正解が異なる。そのためシステム開発には経験がものをいう。

こうしたほうがシステムとしてはうまく動く、こうするとこういった失敗につながる、といったノウハウがシステム開発には重要で、そのノウハウの多くは経験することによって獲得される。

筆者もさまざまな経験を積んだが、その中でもっとも重要だと思うのは「システムは統合してはいけない」ということだ。

システム開発を受注するSIerからみれば、システム統合プロジェクトは規模も大きくなり受注金額が増え、難易度も高いため高い単価を獲得することができる。そのため、システムの統合を好んで提案することが多いが、システムの統合がユーザー企業の実態や戦略に合致しているとは限らない。

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統合システムを開発することのデメリットはいろいろあるが、ここでは逆にシステムを統合しない場合のメリットを挙げてみたい。

最大のメリットは開発規模を小さくできることだ。開発規模が小さいことは受注側からみれば好ましいことではないが、純粋にシステム開発を安く正確に早く行うためには、同じ機能であればシステムは小さければ小さいほど良い。

それはプロジェクトマネジメントの常識でもある。例えばコミュニケーション経路(経路数がすなわちコストだ)を考えてみると、プロジェクトの人数が1人であればコミュニケーション経路はゼロ、2人だと経路は1、3人だと経路は3、4人だと経路は6というように人数が増えれば、コミュニケーションコストは一気に上がっていく。