大学病院は地域最大の企業であり、最も人が集まる場所
【武中】我々もホスピタルパークという構想を温めています。病院には防災に備えて、普段は何も使わないフロアが必要です。これもパブリックゾーンとして、普段はイベントをしたり、地域の方々と交流できる場に使う。
【竹山】少し前に観たドラマで病院のロビーで患者さんを励ますためにコンサートをするという場面がありました。そういうスペースにも使えます。そういえば、すでにとりだい病院ではコンサートをやられているんですね。
【武中】ええ。多目的ホールで音楽ライブを開催しています。さらに6月には病院のロビーや中庭、ロータリーを使った『とりだいフェス 2024』というイベント企画が進んでいます。
【竹山】それは面白い。防災の話になりますが、体育館などに避難すると、ダンボールなどで仕切りをつくりますよね。ちょっと襞がある方が人は楽になるんです。しんどい人は襞に隠れることができる。建築も襞を作ったほうがいいんです。
内臓には襞があって広い面積で栄養を吸収していますよね。襞によって豊かな世界が広がる。それと同じように防災用の大きな場所にも襞のような場所を作って、そこに本棚などがあってもいい。
【武中】私は新病院建設はこの地域の100年の計に関わると考えています。とりだい病院は外来患者数は1日あたり約1600人、入院患者数は約550人。職員は約2200人、加えて1000人以上の鳥取大学の学生、病院一帯にデイタイムでおよそ5000人の人間が集まっています。
この地域最大の企業であり、最も人が集まる場所なんです。だからこそ、単なる医療機関以上の責任があると考えています。もう一歩、我々が踏み込むとすればどのような機能を新病院に付加すべきでしょうか。
【竹山】よく言われていることかもしれませんが、学び、教育でしょうね。生産施設として工場などを誘致するのも大切です。しかし、最終的には人材がどれだけこの地に残るか。あるいは戻ってくる、移り住んでくるか。そのときに一番関心があるのは子どもの教育。もっと大きなレベルで言えば、人生全体での学びの環境を提供する。
【武中】人は知的好奇心を刺激する場所に自然と集まる。
かつて美術館であり病院であったお寺に倣え
【竹山】ぼくは新宿と浅草の仏教寺院の設計もしています。住職の方にこう言われたんです。みなさんはお寺というのは葬式しか縁がないと思っていますが、昔はコンサートホールであり美術館であり学校であり病院であったんです、近代国家になりそうした機能が引き剥がされてしまったんですと。
【武中】考えてみれば、かつて子どもは寺子屋で勉強していました。大人も説法で情報を得て、仏像や絵といった美に触れていた。
【竹山】かつてお寺が果たしてきた役割を医療機関が担ってもいいのではないでしょうか。優秀な医療従事者は自分の専門分野で地域に貢献するだけでなく、その知見を還元できるはず。
【武中】竹山さんと話をしていると新病院が楽しみになってきました。今後も是非、いろんな意見をお聞かせください!
竹山 聖
建築家、京都大学名誉教授。日本建築設計学会会長、東京大学博士(工学)、設計組織アモルフ主宰
1954年大阪府出身。1977年京都大学工学部建築学科卒業、東京大学大学院進学。在学中に「設計組織アモルフ」創設。1997年「京都建築大学ネットワーク」設立。パリ、バレンシア、香港の大学でも教鞭を執る。代表作品は瑠璃光院白蓮華堂、大阪府立北野高校、強羅花壇、べにや無何有ほか。
武中 篤 (たけなか・あつし)
鳥取大学医学部附属病院長
1961年兵庫県出身。山口大学医学部卒業。神戸大学院研究科(外科系、泌尿器科学専攻)修了。医学博士。神戸大学医学部附属病院、川崎医科大学医学部、米国コーネル大学医学部客員教授などを経て、2010年鳥取大学医学部腎泌尿器科学分野教授。2017年副病院長。低侵外科センター長、新規医療研究推進センター長、広報・企画戦略センター長、がんセンター長などを歴任し、2023年から病院長に就任。とりだい病院が住民や職員にとって積極的に誰かに自慢したくなる病院「Our hospital~私たちの病院」の実現に向けて取り組んでいる。