先の尖った超高層ビルになった“オシャレ以外”の理由

しかしクライスラー・ビルの設計者であるヴァン・アレン(1883~1954)には、とっておきの「隠し球」がありました。ウォールタワーの設計変更を察知してから、極秘裏に38メートルの尖塔を製作していたのです。

国広ジョージ『教養としての西洋建築』(祥伝社)

ウォールタワー完成の翌月、1930年5月に完成したクライスラー・ビルは、最後にその尖塔を追加し、319メートルとなりました。これによって世界一高いビルになっただけでなく、312.3メートルのエッフェル塔も抜いて「世界一高い建築物」となったのです。

高さだけではなく、デザインの面でもクライスラー・ビルはニューヨークの摩天楼を代表する存在となりました。三角形の窓とアーチを重ねた幾何学的なてっぺんのデザインは、まさにアール・デコ。壁面や内装も、アール・デコで装飾されています。

しかし、尖塔という秘策を使ってまで達成した高さ記録は、翌年に塗り替えられてしまいました。1931年4月に竣工した「エンパイア・ステート・ビルディング」は、電波塔の最頂部まで443.2メートル。最上階まででも373.2メートルと、クライスラー・ビルを大きく上回っていました。

エンパイア・ステート・ビルから、世界貿易センタービルへ

デザインはクライスラー・ビルほど凝っていませんが、上に行くほど細くなるスタイルは、かつてサーリネンがシカゴ・トリビューンのコンペで2位になった案の影響を受けたもの。低層部と最頂部にも、アール・デコ様式が取り入れられました。

エンパイア・ステート・ビルディング(写真=Axel Tschentscher/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

これを設計したのは、シュリープ・ラム・アンド・ハーモンという建築事務所。この事務所は、エンパイア・ステート・ビルの完成から5年後の1936年に、すでにこの本で名前を挙げた建築家を雇用しました。日系2世のミノル・ヤマサキです。

彼の設計した世界貿易センターのノースタワー(527メートル)が竣工する1972年まで、エンパイア・ステート・ビルは41年間にわたって「世界一」の座を守りました。

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