まだサービス開始していなかった

その熱意と行動力に驚きつつも、村井は当初、相手の真意を測りかねていたという。

「というのも、彼らがOTTのサービスを開始するのは、それから2年後の話です。もちろん、DAZNというブランド名もありませんでした。当時の彼らは、サッカーを中心としたコンテンツサービスの『ゴール・ドットコム(Goal.com)』や、スポーツのデータを扱う『オプタ・スポーツ(Opta Sports)』を買収していて、ディーンは『いずれJリーグと一緒に仕事がしたい』とは言っていました」

写真=時事通信フォト
村井は当初、相手の真意を測りかねていた(川崎フロンターレ対ガンバ大阪戦後の表彰式で、審判団に拍手を送る村井満元チェアマン、2021年2月20日)

DAZNは当時、プレミアリーグ(イングランド)やラ・リーガ(スペイン)やセリエA(イタリア)といった巨大マーケットを避けて、ブンデスリーガをはじめとするドイツ語圏をターゲットとしていた。

そして早い段階から、日本にも目を向けていたため、東京のオフィスにいたサドラーの出番となったのである。

ミャンマーでの元ラガーマンとのファーストコンタクトから2年後、10年間でおよそ2100億円という大型契約に発展することなど、当時の村井は予想もしなかったはずだ。

スカパー!と契約しなかった理由

2007年から16年まで、10年(2回の5年契約)にわたって放映権を獲得していたのは、スカパー!である。

これまでの実績と恩義を考えるなら「引き続きスカパー!で」という可能性は十分にあった――。

そう教えてくれたのは、当時Jリーグメディアプロモーションの代表取締役社長だった、小西孝生である。ではなぜ、そうはならなかったのか?

「具体的な数字は言えないですが、われわれは放映権収入の増額を望んでいたんです。その金額をクリアしていたら、スカパー!さんが2017年以降も放映権を継続されていたかもしれない。

けれども彼らが提示した金額は、残念ながらわれわれが期待していた額との間に開きがあったんです。それで『スカパー!さんとは引き続き交渉させていただきますが、他の候補とも交渉させてください』ということで了承をいただきました」