安倍首相に対する「ヤジ」は保護された

2017年7月15日、札幌市中央区で行われた安倍晋三首相(当時)による、参議院議員選挙の街頭演説に際して、ヤジを飛ばした市民を北海道警の警官が取り押さえ、排除した。当時の朝日新聞は、道警警備部の説明として「トラブル防止と、公職選挙法の『選挙の自由妨害』違反になるおそれがある事案について、警察官が声かけした」と報じている。

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このときもまた「選挙の自由妨害」が争点になっていた。公職選挙法第225条に定められており、北海道での市民の「ヤジ」も、根本氏らの行為も、ともに同条2項「演説を妨害し(中略)選挙の自由を妨害したとき」にあたる恐れがある、そう警察が考えたのだと見られる。

札幌での「ヤジ」をめぐっては、「排除」された男女2人が北海道に賠償を求めた裁判で、昨年、2審の札幌高等裁判所が、道に賠償を命じる判決を出している。表現の自由を侵害された、と認めており、この問題をめぐるドキュメンタリー映画「ヤジと民主主義」が作られたように、「この社会で生活していく全ての人、あなた自身に関わってくる問題」(同作品ウェブサイト)と言えよう。

「一般人のヤジ」と同列に扱うのは不適切

今回の東京15区での行為が「選挙妨害」かどうか。この「ヤジ排除問題」があったから警察が及び腰になったのではないか、との説が、ネット上を中心に見られた。根本氏らの「質問」や「直撃」は、「表現の自由」どころか、乙武氏も認める通り「公職選挙法のもとで逆に保護されて」いるからである。

「一般人のヤジと公人でもある候補者の行為を同列に扱うことは不適切」と、憲法を専門とする内藤光博・専修大学法学部教授は毎日新聞にコメントしている。まさしく同じではないのだから、その線引きは、とても難しい。安倍首相に対する「ヤジ」が保護される以上、公職選挙法によってさらに手厚く守られている「街頭演説」については、現時点では、議論の余地がないのではないか。

だからといって、根本氏を持ち上げたいわけではないし、逆に、彼や「つばさの党」を貶めたいわけでもない。そうではなく、乙武氏を筆頭に、公職選挙法の改正を声高に訴える「空気」を懸念しているのである。