「侮辱罪の厳罰化」の何が問題なのか

ネットの誹謗ひぼう中傷対策として侮辱罪を厳罰化した改正刑法が、7月にも施行されることになった。

侮辱罪厳罰化、拘禁刑創設を盛り込んだ改正刑法が可決、成立した参院本会議=2022年6月13日、国会内
写真=時事通信フォト
侮辱罪厳罰化、拘禁刑創設を盛り込んだ改正刑法が可決、成立した参院本会議=2022年6月13日、国会内

2020年5月に、フジテレビの恋愛リアリティー番組「テラスハウス」に出演していた女子プロレスラーの木村花さんがSNSで誹謗中傷されて自ら命を絶った事件をきっかけに、ネット上で人をおとしめる犯罪行為に対しあまりに刑罰が軽すぎるとの批判が急速に広がり、事件から2年という短期間で罰則を全面的に強化する法改正が行われた。

木村花さんの事件では、大量の誹謗中傷の投稿がネット上にあふれたにもかかわらず、侮辱罪に問われた投稿者はたった2人で、刑罰はいずれも9000円の科料のみ。「言ったもん勝ちで、あまりに理不尽」と訴えてきた木村花さんの母・響子さんは「やっと、という思い。誹謗中傷が犯罪だということを知ってほしい」と語った。

厳罰化は、無責任な誹謗中傷に対する抑止効果が期待され、「言葉の刃」の被害に苦しむ人たちを中心に歓迎されている。

あいまいな「批判」と「誹謗中傷」の線引き

だが、一方で、拙速ともいえる法規制の強化がもたらすデメリットを危ぶむ声も少なくない。

もっとも大きな問題は、まっとうな批判と誹謗中傷の線引きがあいまいで、どのような表現が処罰の対象になるかが判然としないことだ。

このため、運用にあたって捜査当局の恣意しい的な判断が入り込む余地が大きく、侮辱罪での取り締まりが広がって、憲法で保障される表現の自由や批判の自由が脅かされかねないとの懸念が強まっている。