NHKの「独占スクープ」の不都合な真実

「みなさまのNHK」が報道機関の風上にも置けないということで、記者クラブから追放されてしまった。

きっかけは、5月5日、北海道・知床遊覧船事故に関してNHKが放ったスクープである。元従業員などから、ずさんな安全管理の証言が次々と飛び出しているなか、運営会社の空欄だらけの無線記録簿を公開したのだ。

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写真=iStock.com/microgen
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さすが公共放送、見事な調査報道だと絶賛されたが、すぐに「メッキ」が剥がれる。「文春デジタル」など一部メディアによれば、この無線記録簿をNHK記者に提供をしたのは事故被害者の遺族。NHKは兵庫県警記者クラブの幹事社という元締め的な立場だったので、遺族の無念を広く世に伝えて欲しいと、「記者クラブで共有してください」と告げたという。

しかし、フタを開けてみれば、記録簿はNHKの「独占スクープ」と報じられた。要するに、他社に渡さずに懐に入れてしまったのである。不審に思った遺族が他社の記者に問い合わせをして、この「ネタの着服」は発覚し、NHKは記者クラブから除名処分となったというわけだ。

なぜ「弱者」の信頼を裏切る記者が相次ぐのか

という話を聞くと、「あれ? ちょっと前にも似たような話が……」と思うかもしれない。財務省公文書改ざん問題などで、安倍政権の疑惑を追及されている有名ジャーナリスト、望月衣塑子・東京新聞記者も、亡くなった財務省職員のご遺族から、「報道目的で借りた資料の無断流用」を指摘されているのだ。

本件を取材しているジャーナリスト・相澤冬樹氏の『悲鳴を上げて逃げた望月衣塑子記者 「取材続けて」と手を差し伸べる赤木雅子さんの声は届くか』(文春デジタル5月4日)によれば、望月記者原作のネットフリックスドラマ「新聞記者」の中に、遺書や家族写真などを見たと思われる描写があり、望月記者がドラマ側に資料を渡したのではないか、とご遺族は不安になっている。しかし、残念ながら、望月記者とはまったく連絡が取れなくなってしまい、東京新聞側からも説明がないという。

さて、そこで不思議なのは、弱者に寄り添い、権力の不正を監視するような立派な人々が、なぜ相次いで「弱者」である遺族の信頼を裏切って、しらばっくれるようなことをしているのかということだ。

ジャーナリストの質が低下している。日本を貶める「マスゴミ」はもともとそんなものだ……などなど、いろいろなご意見があるだろうが、筆者は記者クラブの「情報のボトルネック」としての機能が低下していることで、その中で働く記者の労働環境が悪化して、モラルハザードを引き起こしている気がしてならない。

一体どういうことかをわかっていただくため、まずは記者クラブの「情報のボトルネック」としての機能とは何かということから理解していただく必要がある。