「売った後のサービス」を競争力の源にしている

こうした大企業らしさの強みと共に、お客に寄り添う人間味あるきめ細やかなサービスという中小企業らしい強みも、サイクルベースあさひの特徴である。街の小さな自転車店の良さは、気さくなコミュニケーション、融通の利いたサービスにあるが、一般に、企業が成長して規模を拡大していくにつれ、こうした中小企業らしさは失われやすい。マニュアル化され、簡素化され、効率重視に偏り、サービスは画一化していき、古参のファンから「昔は良かったのに」と嘆かれる。しかし、サイクルベースあさひには、そうした嘆きは一切聞こえてこない。

多くのライバル店では、自転車の販売はセルフサービスで、アフターサービスにも限りがある。サービス対応はコスト源として、いかにコストカットするかが追求されがちだ。対照的に、サイクルベースあさひは、自転車を売って終わりにせず、売った後のサービスこそをコア・コンピタンス(競争力の源)として最重要視している。だから、どんな要望・問い合わせにも「できない」や「難しい」は言わず、「できる」や「方法を考える」と答えてお客に寄り添う姿勢が全店・全従業員に共有されている(※8)

自転車の困りごとの定番と言えばパンク修理だが、一般的な対応は、お客が朝に自転車を持っていったら、修理が完了するのは早くても昼や夕方で、受け取りにもう一度店を訪れるというものだ。それを、サイクルベースあさひでは、ユーザーの本音は「今すぐ、この場で直してほしい」に違いないと考え、パンクをその場で10分以内に修理完了させる方針を徹底している(※5)

写真=iStock.com/Sophonnawit Inkaew
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修理・メンテナスのサービスで「ファン」をつくる

パンク以外の修理でも、80%以上の場合で即時対応できる体制を実現しているという(※3)。また、修理は種類ごとに料金体系が一覧でまとめられており、事前に修理代金が分かっていることも安心感を高めている。全国での出張対応を実現しているのも、特筆に値する取り組みだ。サイクルベースあさひを利用するお客の多くが、自転車を買うとき以上に、修理・メンテナンスで訪れた際のサービスに感激してファンになっている。

筆者自身、子ども用自転車のチェーンが外れてしまった際に店舗を訪れると、別の作業をしていた従業員がすぐに駆け付けて話を聞いてくれて、ものの数分ですぐに直してくれたことに親子で感激した経験がある。「これくらいなら無料でいいですよ」と言われ、それでは申し訳ないと思い、自転車のアクセサリーを購入させてもらった。それ以来、他店にはない信頼感を抱くようになった。

こうした修理・メンテナンス体制を整えるために、サイクルベースあさひでは店舗勤務者なら誰もが自転車技士や自転車安全整備士の専門資格を取得するように、人材育成に注力している(※6)。新人研修や店長会議などでは常に「お客様第一」を確認・徹底し、店頭での知識やノウハウを集積・共有して、迅速かつ適切なサービスができるプロフェッショナルに育成している(※5)