日本の政治は二極化の傾向が薄い

――トランプ前大統領は4つの刑事事件で起訴されているにもかかわらず、選挙戦を続け、共和党の大統領候補になる見通しです。日本人の感覚からすると信じられません。

故田中角栄元首相も似たようなものだ。ロッキード事件で逮捕・保釈された後も、政界に非常に大きな影響力を及ぼしていた(注:1972~74年まで首相、1976年夏に逮捕後、保釈)。当時、彼は「ヤミ将軍」と呼ばれていた。首相退任後も、最大派閥だった田中派のトップとして、表舞台の背後から、事実上、国を動かしていた。つまり、政界の「黒幕」のような存在だった。

――日米の政治について、どう思いますか。

どちらも機能不全だ。まずアメリカは、政治システムの二極化が激しい。共和党と民主党の差は歴然だ。平均的な有権者を中央に位置づけると、共和党は右寄りであり、民主党は左寄りだ。つまり、両党とも政治的スタンスが実際の有権者よりも極端なのだ。こうした米政治の二極化は、あらゆる面で有害な影響を及ぼす。

ひるがえって、日本の政治システムは二極化の傾向が薄い。自民党と主な中道派の野党の差がはっきりしないのだ。経済政策一つとっても、自民党内の差のほうが、自民党と主な野党の差より大きい。自民党内には、タカ派もいればハト派もいる。自由市場支持派もいれば、より社会主義に近い考え方の議員もいる。幅が大きい。

一方、与野党間の違いがクリアでないため、福祉の充実や労働・金融規制を支持する有権者がいても、どの党に投票すべきかわからない。多くの場合、与党も野党も同じようなことを議論している。

日本の野党には政権を担うだけの力がない

つまり、本当の意味で、政治に「競争」がないのだ。理由は2つ。まず、前述したように、政党間の違いがはっきりしない、または大きくないことが挙げられる。そして、もう1つの理由は、野党に政権を担うだけの力がないことだ。

例えば、自民党より左寄りの有権者は立憲民主党を支持するかもしれないが、実際に一票を投じるのはためらうのではないか。まず、立憲民主党が自民党に勝てるかどうか確信を持てない。次に、野党が国をうまく統治できるかどうか確信がない。2009年に政権交代が起こり、3年余りにわたって民主党が政権の座に就いたが、効果的に統治できなかったからだ。

写真=NurPhoto via AFP/時事通信フォト
2024年4月10日、ホワイトハウスのローズガーデンで共同記者会見を行う岸田文雄首相とジョー・バイデン大統領。

自民党嫌いの日本人は多いだろうが、野党はもっとまずい。つまり、日本の有権者には、「好ましくない二択」しか道がないのだ。岸田政権も自民党も支持率が低迷しているが、野党の支持率はもっと低い。これでは、誰のことも支持しない有権者がいても不思議ではない。これが日本政治の機能不全だ。

とはいえ、アメリカのほうがひどい。法案を通して事を進められるだけ、日本政府のほうがましだ。日本には、ナショナリスト的なポピュリズムもない。