セブン-イレブンにみる利益分配の方法

第二の基本問題は、協業者それぞれの権利・義務についての合意である。その中で焦点となるのは、利益分配の権利と損失負担の義務についての合意である。第一の市場型協業方式の場合は、その都度の契約によって互いの権利・義務が合意される。リスク負担と利益分配に関していえば、関係者はそれぞれ独立にリスクを負担し、利益を獲得する。ここにはサプライチェーン全体の共通の利益という考え方はない。第二の長期契約型協業方式を採用した場合には、将来起こりうる事態について互いが守るべきルールが決められ、そのルールの遵守を担保するための方法についての合意が行われる。第三の組織的協業方式の場合は、リスクは統合した側によって負われ、利益は統合した側が得る。統合された側は、統合の時点で将来利益の分配を受け、統合は、リスクは負わないし、利益の分配も受けない。

第二の方式のもとでの利益分配と損失負担には2種類の方式がある。第一は、一方があまりリスクを負担せず他方がリスクを負うという合意である。一方が他方から手数料あるいはフィーという形で固定的な報酬を得る場合がこれにあたる。第二は、協働で得た利益を双方で分け合うという方式である。コンビニのフランチャイズ契約でも、セブン-イレブンの場合は、粗利益の配分という形をとっている。この方式はより純粋な利益分配の方法に近い。

この利益分配とリスク負担のルールは当事者の仕事への取り組みの真剣さに影響を及ぼす。利益分配を受けている場合には、それは協働利益を増やそうとするインセンティブとなる。リスク負担の義務を負っている場合には、損失を出さないようにしようという動機も生み出されるために、仕事への取り組みはより真剣なものになる。逆に、リスク負担をした場合には、全体の利益よりも、自分自身の利益を優先してしまうという問題が起こりがちである。

実際に、どのような方式が選ばれているか。どの方式がよいかは環境によって異なる。これがベストだというような方式はない、業種による違いがある。電子機器産業では、第一の市場型協業が採用されることが多い。部品の標準化が進んでいるからだ。自動車産業では第二の方式が採用されることが多かったようである。協業の方向の違いも影響す。きわめて大雑把にいうと、縦の協業の場合には、第二の方式がとられることが多く、横の協業の場合には、第三の方式がとられることが多い。シスメクスが試薬を束化する際には、買収という第三の方式を用いている。この典型だろう。

なぜこのような違いが見られるのか。縦型の協業の場合に第二のほうが支配的になる理由の第一は、サプライチェーン全体の利益を考える、売り手も買い手もリスクと利益、協働利益を増やそうとする協業への誘引が重要な意味を持っている。競争淘汰が働く場合には、第一の方式は長期持続が困難であるという理由もある。エレクトロニクス業界で新しい協業の方式が模索されているのは、このためである。

横型の協業で第三の方式が用いられるのは、技術情報や顧客情報の組織的共有が不可欠だからである。さまざまな方式の採用がどのような合理性を持っているかの理論的解析が、学者の間では研究の焦点となっている。それによって、協業の方式の選択のためのより確かな指針も得られるであろう。

(※すべて雑誌掲載当時)

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