鴻海によるシャープの「買収」「救済」の本質

シャープの資本・業務提携の相手である台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業のトップ、テリー・ゴウ(郭台銘)会長が8月末に来日。しかし提携交渉の状況を説明すると見られていた記者会見を急遽キャンセルして日本を離れた。

彼は「どこに行っても100人の記者に囲まれているような状況では落ち着いて話ができない」と語っていた。

鴻海精密工業の従業員は100万人以上、iPhoneの躍進を支えている。(ロイター/AFLO=写真)

経営不振にあえぐシャープと鴻海グループとの資本・業務提携が発表されたのは12年3月。シャープが670憶円の第三者割当増資を実施、これを鴻海グループが引き受けて、議決権ベースで9.9%を持つ筆頭株主になるというものだ。しかし、その後シャープの株価が約3分の1に急落したことなどから、出資額などの条件見直しを進めていた。

今回の資本・業務提携が対等なものではなく、実質的には鴻海によるシャープの「買収」または「救済」に近いものであることは両社の数字が物語っている。

EMS(電子機器の受託製造サービス)で世界最大手、iPhoneやiPadの受託生産が絶好調の鴻海の売り上げは、9兆7000億円(2011年12月決算)。シャープはその3分の1以下の2兆5000憶円。そのシャープの株価時価総額2000憶円に対して、鴻海は2兆6000憶円。売り上げで4倍、時価総額では10倍以上の違いがある。「丸ごと買収するぞ」と郭会長はシャープの幹部相手にすごんだともいわれているが、実際、ワケないのである。

シャープと鴻海の力関係は、エレクトロニクス分野で日の出の勢いの台湾企業と、凋落して投げ売り局面にある日本企業という現状をそのまま象徴している。

なぜ台湾企業は強いのか。

日本企業は世界化の範を欧米に求めて、開発研究から設計、製造、販売まで自分たちで手掛け、ブランドを持ち、サービスまで自前で展開する垂直統合型のフルビジネスシステムを成長モデルにしてきた。

対して台湾企業は一つの機能に絞り込み、専門分野に特化することで競争力を磨いてきた。台湾のTSMCは世界トップのファウンドリー企業(自ら設計は行わず、発注元の回路設計に基づいて半導体を製造するメーカー)だが、台湾企業の多くはそうしたファウンドリー企業やEMSメーカー、他社ブランドを製造するOEMメーカーである。