これがこの5年で起こったデジタル世界の現実である。その現実に日本企業はついていけていない。「あなたの会社が30年かけてやってきたことを集約すると、このスマホの3つのアイコンです」と経営者に言っても理解できない。事業部制を取っているところではいまだに各事業部がヒット商品を狙って汗を流している。自分たちの商品がスマホのアイコンになるイメージが持てないから、どうしてもモノを作ろうとする。ゆえにこの5年で日本のエレクトロニクス産業は突然死寸前まで追い込まれてしまったのだ。

いまだに「あいつらはオリジナルのものができない」と台湾企業を見下している経営者がいるが、勘違いも甚だしい。確かに多くのハード、部品、素材、組み立て・加工機械などは日本が得意のイノベーションで世に送り出すが、ネットワークとプラットフォームの時代にはそれらをすべて重ね合わせた者が勝利する。

中国語、英語、日本語の3カ国語を操る台湾勢は世界のマーケットに通じているし、日本の事情も知り抜いている。中国人の使い方も知っている。

台湾では技術者の給料は高いし、理科系で大学院にいくと兵役免除になることもあって、技術系の人材が次々と輩出されてくる。アメリカで起業する台湾人も多く、シリコンバレーとの結びつきが強い。彼らはシリコンバレーのネットワークをうまく使いながら最先端の技術をビジネスに結びつけている。iPhoneの開発者が集まっているカフェの隣の席には、いつでも台湾人の起業家やエンジニアがいるのだ。そこに日本人の姿はほとんど見えない。この距離感たるや絶望的だ。

主役はアップルやグーグルであり、それを取り囲むサポート部隊のほとんどが台湾勢。そして台湾勢の指示通りに動いているのが中国企業――というのが世界のエレクトロクス業界の構図である。すでに舞台を降りた日本企業はいまだにリストラとコストダウンを繰り返しているが、カンナでいくら削っても収益という基盤には届かない。苦労している量販店同士が弱者連合を組んでいるが、ヤマダ電機にはかなわない。いち早く経営危機に陥り蘇寧電器に買収されたLAOXが中国でも活躍している。この姿が日本のエレクトロニクスメーカーの明日の姿と重ならないだろうか?

※すべて雑誌掲載当時

(小川 剛=構成 ロイター/AFLO=写真)