対中政策は「貿易戦争」が中心に

現在トランプ氏は、自分が大統領在職時代に、中国との「貿易戦争」で強い態度をとったことが、アメリカに利益をもたらした、と繰り返し主張している。そして改めて大統領に就任したら、在任中に中国に対して課した25%の関税を大幅に上回る60%の関税を新たに導入するといった派手な発言も行っている

※写真はイメージです(写真=Nicolas Vigier/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

選挙キャンペーン中の発言ではあるが、従来の「アメリカ・ファースト」の路線にそった岩盤支持者層に向けた発言ではあるので、冗談と受け止めることはできない。もっとも「取引」好きのトランプ氏ゆえに、実際にこの政策を追求するかどうかは中国の出方次第というところもある。コロナ禍の時期から経済が不調の状態にある中国としては、アメリカとの熾烈しれつな「貿易戦争」の再来は避けたいところだろう。

とはいえ、中国に切ることができる有効なカードがあるだろうか。台湾問題はもちろん、北朝鮮やロシアとの関係など、安全保障に関わる分野で、中国が弱腰の対応をとってくるとは思えない。

トランプ氏による「貿易戦争」の挑発を、中国が受けて立つ態度を示す可能性もあるだろう。トランプ氏が本当に関税60%などの本格的な「貿易戦争」を開始した場合、日本経済を含めた世界経済への影響がどのようなものになるのか、なかなか想像はできない。

いずれにせよ、トランプ政権が成立すれば、アメリカは安全保障上の考慮を中心にして東アジア政策の内容を決めていく余裕を見せなくなるのではないか。「アメリカ・ファースト」の姿勢の貫徹と、それによる中国との「貿易戦争」の激化は、東アジアにおけるアメリカの安全保障分野での重しの減退を招く恐れが強い。アメリカは、貿易政策の推進を中心にして、東アジア政策の内容を決定し、安全保障政策をその従属変数としていくのではないか。