かつてまったく売れなかった無糖コーヒーがヒット
また1990年代に入り、甘さ控えめの紅茶、無糖の緑茶やウーロン茶といったお茶の缶飲料も売れ行きを伸ばしていった。朝日新聞1994年(平成6)10月24日朝刊では「無糖飲料『味で勝負』」と題した記事がある。無糖コーヒーは「五年ほど前、各社一斉に出したが、当時はまるで売れなかった」のが一変し、ハトムギなどを使ったブレンド茶や無糖コーヒーが猛暑だった「この夏、売れに売れた」という。先のジャムの例と同様、メーカーの提案にようやく人々がついてきた格好だった。
こうして砂糖は、市場の隅に徐々に追いやられていった。以後、その流れは止まるどころか、加速していく。
2006年(平成18)には、サントリーがノンカロリーを前面に打ち出した「ペプシネックス」を日本独自にリリース。翌2007年には「コカ・コーラ ゼロ」が日本で発売された。
その動きはアルコールにも飛び火する。同年にアサヒビールが「糖質ゼロ」を謳った発泡酒「アサヒ スタイルフリー」を売り出すと、2008年(平成20)には糖質ゼロや脂質ゼロを謳う商品が相次いで市場に投入され、「ゼロブーム」が巻き起こった。そして行き着いた先が、昨今流行している糖質制限ダイエットだ。
「甘さ控えめ」から「糖質ゼロ」へ
糖質制限食は、肥満の治療法として長い歴史をもつ。
ヨーロッパでは「ダイエット中」を意味する「バンティング」という言葉がある。由来となったのは、19世紀のロンドンを生きた葬儀屋のウィリアム・バンティングだ。肥満に悩む彼は、あらゆる治療を試しては挫折していた。
あるとき、医師のアドバイスに従い、炭水化物やデンプン、糖類を減らした食事を続けたところ、初めて減量に成功。そこで彼は1863年、『肥満についての手紙』という小冊子を書き、無料配布した。そこから「バンティング」はダイエットを指すようになったのである。
日本でもかねてから、糖尿病患者に向けて糖質制限の食事療法は行われてきた。だが、それが日本でダイエットとして一般に広まるには「ゼロブーム」の下地が必要だった。かくして「控えめ」から「ゼロ」へ、糖質そのものが避けられる時代へと突入したのだ。