糖尿病が注目を集める“節制の時代”へ

事情がガラリと変わるのは、1980年代に入ってからだ。

1979年(昭和54)にNHKの料理番組『きょうの料理』で初めて成人病の食事が特集され、大反響を呼んだ。その際に高血圧と並び、番組の一つの柱になったのが糖尿病だった。テキストでは「太りすぎの人のために」と題し、食べすぎや高カロリーの食品を控えるように説いている。甘さを謳歌した高度成長期を経て、時代は節制へと傾いていた。そこで真っ先に標的にされたのが砂糖だった。

1982年(昭和57)に連載された読売新聞の「ニッポン新味覚地図」では、11月4日に「甘さ控え目が主流」という見出しでケーキを取りあげている。それによれば、戦後から昭和40年前半まではバタークリーム全盛期。その後、生クリームが人気を集め、50年代は甘ったるさを感じさせないチーズケーキの時代が到来。「そして今、もっと軽い、ヨーグルトやムース、スフレ菓子へと、好みが移りつつある」として、甘さのみならず、脂肪分も減らしたさっぱりしたものへ嗜好が変化していると分析している。

さらにその翌1983年(昭和58)に連載された続編「ニッポン味覚新事情」の7月28日朝刊では、ジャムが「多種類、手作り、低糖路線」に変化したことを伝えている。それによると、「普通のジャム(糖度が六十五度以上)より甘さを抑えた低糖タイプが全体の六割を占め、いまや主流」とある。業界初の低糖タイプが登場したのは、1970年(昭和45)にキユーピーから発売された糖度55度の「アヲハタ55」だ。当初苦戦を強いられた同社は「ようやく開花した感じ」と紙面でコメントしている。

いちごジャム
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そして再び、甘味料が注目を集める時代がやってきた。

「トクホ」のスタートが甘味料ブームを後押し

1984年(昭和59)に卓上用甘味料「パルスイート」が発売。その同じ年、アスパルテームと果糖を使った「コカ・コーラ ライト」も発売され、低カロリー商品の普及に弾みをつけた。

読売新聞1986年(昭和61)8月22日夕刊では「新甘味料 ポスト砂糖 目白押し」と題し、パラチノース、ステビア、フラクトオリゴ糖、アスパルテームといった新たな甘味料が取りあげられている。不足する砂糖の甘さを補うためのかつての救世主は、ここにきて砂糖の量を減らすための代替品へと変貌を遂げた。「うそつき」と呼ばれた以前とは異なり、高まる健康志向を追い風に「体によい」という大義名分を得たのである。

成人病予防のため、特定保健用食品制度が1991年(平成3)に始まったことも飛躍を後押しした。特定保健用食品、いわゆる「トクホ」は厚生労働省の認可を受けて、特定の保健の用途を表示できる食品のことだ。

新甘味料を使った一例としては、1989年(平成元)にカルピス食品が発売し、機能性飲料ブームの一翼を担った「オリゴCC」がある。カロリーが低く、整腸作用があるオリゴ糖を使ったこの商品は、「トクホ」第1号が誕生したのと同じ1993年に許可を受けている。