「甘くなくておいしい」はいつから褒め言葉になったのか。ライターの澁川祐子さんは「かつて日本では『甘い』と『うまい』は同義だった。高度経済成長期以降、急速に健康志向が高まる中で砂糖が忌避されるようになった」という――。

※本稿は、澁川祐子『味なニッポン戦後史』(インターナショナル新書)の一部を再編集したものです。

ショートケーキ
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江戸後期から甘くなりだした日本の料理

かつて日本で「甘い」は「うまい」と同義だった。

江戸時代後期の料理書では、煮物を「甘煮」と書いて「うまに」と読ませる例が登場する。江戸時代中期までもっぱら輸入に頼っていた砂糖が広くつくられるようになり、やっと庶民にも手が届くようになった時代である。この頃から料理に砂糖やみりんが多用されるようになり、日本の料理は全体的に甘くなっていった。

その一因に、欧米のように食後にデザートを食べる習慣がないからだといわれることがある。だが、理由はそれだけではないだろう。かつて日本の食卓は、動物性タンパク質や油脂と縁遠かった。その代わりに「だし」というコクの武器を発展させてきた。足りないコクをさらに補うため、当時普及し始めた砂糖やみりんの甘味が歓迎されたのではないだろうか。

このように甘さは、長らく喜ばれるものであって、敬遠されるものではなかった。しかし昨今、巷に溢れる食レポを見ていると「甘くておいしい」と「甘くなくておいしい」という、相反する褒め言葉が飛び交っている。