「砂糖をひかえたお菓子」レシピ本に批判が寄せられた

いったい「甘くなくておいしい」、つまり甘すぎないことをよしとする風潮はいつ頃から出てきたのだろう。

お菓子づくりの本に何か手がかりはないかと探していたところ、福島登美子指導・監修『婦人之友社のお菓子の本 ケーキから和菓子まで70種』(婦人之友社、1999年)という一冊の本をみつけた。同書は、1960年(昭和35)刊行の婦人之友社編集部編『家庭でできる和洋菓子』を現代風にアレンジした基本書だ。

もとの本の製作に携わった福島は、同書に「砂糖の分量、今と昔」というコラムを寄せている。それによれば、1975年(昭和50)に福島が同じく婦人之友社から『砂糖をひかえたお菓子』という本を出したところ、「専門家から『砂糖をひかえたお菓子などあり得ない』といわれた」という。

しかし、「時代とともにほかのお菓子も甘みが減り、その分、洋菓子ではバターの分量が増えています」と記している。また、「当時は甘みの感覚が今とはずいぶん違い、ゼリーや和風の寄せものなどは1カップの水分に対して砂糖の量は半分が基本でした。今では1カップの水分に1/3が目安」と具体例も挙げている。

変化は、新しい世代から起きた。食糧難を経験した世代と、高度成長期に生まれ育った世代とでは、甘さに対する執着が違って当然だろう。甘さに飢えていた時代は終わり、おやつの人気はしょっぱいスナック菓子へと移り変わりつつあった。

「ただ甘いだけで、一口食べてもうけっこう」

朝日新聞1970年(昭和45)1月18日朝刊には「おやつも辛口時代」と題し、子どもたちの間でチョコレートやケーキよりもしょっぱいスナック菓子やせんべい、あられが好まれていると報じている。1975年には、今も人気を誇るカルビーのポテトチップスが発売された。

1978年(昭和53)に刊行され、2002年(平成14)に復刊もされたマドモアゼルいくこ著『秘密のケーキづくり』(主婦と生活社)という伝説の本がある。キャッチコピーは「おいしくて太らない 簡単で失敗しない」。美大卒の24歳の著者が、趣味でつくり続けてきたケーキのノートをもとに出版した一冊で、女子高生たちの間で話題になった。

そのまえがきには、次のように綴られている。

「お店で売っているケーキってほんとうに甘い。もちろんなかにはおいしいのもあるけれど、せっかくのパイの上にジャムがベタッと塗ってあったり……風味よりも何よりもただ甘いだけで、一口食べてもうけっこうといいたくなります」

ただ甘いだけのものはもういらない。「甘くなくておいしい」まであと一歩のところだった。