田原氏がそこまで早口でまくしたてかけたとき、傍らに控える女性が「だから、人の質問を最後までちゃんと聞いてください!」とぴしゃりと苦言を呈した。「取材中に横から口をはさんで、すみません」と、ちょこんと頭を下げたその女性こそ、マネジャーとして、事務所のスタッフとして、田原氏を長年、支えている三女の和田眞理さんであった。

以下、和田眞理さんご本人の承諾を得たうえで、なるべく忠実に文中に再現したい。

娘からの苦言に、どんどん声が小さくなる…

【和田眞理さん(以下、眞理さん)】だから、いまの質問は、番組でパネリストの人が発言している途中でさえぎったまま、司会者が長々と口をはさんでいるから批判されていることについて聞いているんですよ。

【田原】いや、意見を聞いているから反論もする……。

【眞理さん】だから、質問を最後まで聞いてくださいっていってるでしょう。

【田原】うん。で、もっといえば、自民党とまともにケンカしようと思っているのは共産党しかないんだから、僕は共産党の言い分はきちんと聞きたいと思ってるんだ。

【眞理さん】いやいや、違うでしょう。意見や質問を最後までちゃんと聞いてよ。

【田原】だから、質問をどんどんし合って、議論を深めたい……。

互いにストレートでありながら、どこかちぐはぐな父と娘のやりとりは、実に興味深いものがあった。正鵠を射ていたのは、明らかに娘である。改めて質問をつづけた。

――反対の意見とぶつかっても、そのことを恐れずに議論をしていく田原さんの姿勢に視聴者たちは……。

【田原】いや、あの、だから僕は……。

【眞理さん】もう、まだ質問が終わってないでしょう。

撮影=遠藤素子
だんだん早口になっていく田原さんに、部屋の隅から眞理さんの声が飛ぶ。すると田原さんはこの表情に。眞理さんの指摘にじっと耳を傾ける

亡き妻と、娘のダメ出しへの感謝

――質問をつづけます。意見の異なる人、極端に考えの違う人と議論が白熱しても、たとえばSNSで炎上することも恐れずに、討論を広げて活発化させていく強引さが田原さんの持ち味であり、魅力であると思って、視聴者は番組を見ているのではないでしょうか。

【田原】うん、炎上するのは大歓迎。無視されるよりは炎上したほうがいいじゃない。

田原氏が、日本テレビの元アナウンサーであり、プロデューサーでもあった妻・節子さん(2004年に他界)に、生放送の番組が終わるたびに、いわゆる「ダメ出し」をされていたというエピソードは有名である。互いに再婚の身であり、いくつもの困難を乗り越えた夫婦のありようは、田原総一朗・田原節子共著『私たちの愛』(講談社・2003年)に詳しい。

【田原】彼女と出会ったときにね、こんなに考え方、気の合う人がいるのかと思った。もちろん、彼女のほうが僕より才能はあるし、能力もある。だから、結婚して、ほとんど彼女のいうことに従っていました。彼女のいうことは一つひとつもっともだと思いましたからね。

やっぱりね、夫婦ってそういうものだと思うんですよ。本音で話し合える。そのうえ、率直にいって僕より彼女のほうがはるかに能力がある。

撮影=遠藤素子
なんでも話し合える節子さんとの関係は、田原さんの理想そのものだった