「刑事事件の被告」だからパワーアップした
それにしても、4つの刑事事件の被告であり、計91もの罪に問われているトランプ氏が、なぜここまでのパワーを保てるのか。
実はトランプ氏がパワーアップしたのは、むしろ起訴のおかげなのだ。
トランプ氏は起訴された当初から、法廷に積極的に顔を見せた。そのたびにあらゆるメディアが取り上げ、一挙一動を報道した。
そのたびに「これはバイデン政権による魔女裁判だ、自分は犠牲者だ」と繰り返し主張した。時には裁判官に歯向かい、体制に反抗するイメージを作り出した。
トランプ氏の岩盤支持者は、地方の白人低所得者層だ。彼らはもともと、大きな政府で社会保障を重視する民主党の支持基盤だった。ところが、クリントン政権のあたりから民主党の政治が富裕層やエリート寄りになり、オバマ政権が若者の支持を受け、LGBTQの権利拡大など、文化的価値観が進むにつれ、取り残されたと感じるようになった。
ビッグ・ライを信じたこうした岩盤層には、トランプ氏が体制の暴挙にも負けず、自分たちのために再び戦ってくれる戦士に見えているのだ。
“トランプ離れ”したエリート層も戻ってきた
また、膨れ上がるトランプパワーに引き付けられて新たな支持者も増えている。2016年のトランプ当選に貢献した「隠れトランプたち」だ。
年長白人男性を中心とした中道右派であり、昔からの共和党支持者だ。トランプの岩盤支持者とは違い、高学歴で高収入の富裕層も多い。
共和党はもともと、小さな政府で減税志向、特に富裕層と規制緩和による大企業優遇を基本としてきた。逆に社会保障などの予算はできるだけカットしたい。
そのため高所得者になるほど、共和党政権のほうがメリットがある。おのずと白人で高所得の保守主義者が共和党支持者になる。トランプ政権時代の減税の恩恵を受けたのもこの層だ。
実は、彼らは今回のスーパーチューズデーまでずっと迷っていた。2021年の議会襲撃事件の後、この層は急激にトランプ離れを起こしている。事件以降、共和党のデサンティス・フロリダ州知事や、ニッキー・ヘイリー元国連大使など、多くの若い候補が立ったのも、こうした層がトランプ以外の候補者を求めたからだ。
ところが若い候補はどうしてもトランプに勝てない。本戦でもバイデンに勝てないだろう――。どうしても共和党政権を奪還したい彼らは、トランプ支持に戻った。彼のモラルのなさや、議会襲撃事件への加担の疑い、民主主義へのリスクなど、多くのマイナス要因以上に、得られるメリットのほうが大きいと考えたからだ。