「高学歴エリート向けの政策ばかり」と失望

さらにこんな意見も聞かれた。「最初はバイデンにみんなすごく希望を抱いていたのに、多くの人を失望させてしまった」

彼らは学生ローンの救済や温暖化対策など、バイデン氏の公約に期待していた。しかし4年目に入った今も、その変化は緩慢に見える。

また一般庶民にとって最も切実なのは経済問題だ。パンデミックからの経済復興が進んだとはいえ、高いインフレに賃金上昇が追いつかない。富裕層だけが豊かになり、さらなる格差が生まれている。このままでは自分たちは将来結婚できるのか、マイホームを持てるのか? という不安も広がっている。

中でも最もインパクトを受けているのは、低学歴の若者たちだ。彼らから見るバイデン氏のメッセージは、トランプ氏による民主主義へのリスクや、妊娠中絶問題、LGBTQの権利など、「高学歴なエリートの若者」が関心を持つ問題に偏っている。

そうではなく、もっと社会保障やホームレス救済などの、本来なら民主党がやるべき施策をやってほしいのに、自分たちの声が届いていないという不満がある。

Z世代は史上最も高学歴の世代といわれている。しかしそうでない若者から見ると、民主党は「高学歴のリベラルのための党になった」という反感も強いのだ。

トランプ氏が事実上下院を動かしている

一方のトランプ氏は、この3年間政治の舞台から姿を消していたわけではない。2020年は、負けたとはいえ7400万票を獲得するという記録を叩き出している。(バイデン氏は8100万票)

この僅差があり、選挙に不正があったという主張(ビッグ・ライ)を共和党支持者の過半数が信じた。そのために議会襲撃事件まで起こった。

一方バイデン政権になってからも、前任のトランプ氏が指名した3人の保守判事が動き、2022年には50年近く続いた女性の人工妊娠中絶の権利は覆された。トランプ氏が大きな公約を果たしたことになる。

また下院では、トランプ派の議員らが力を伸ばしていった。共和党がわずかに多数派となった下院では、彼らの投票に議決が左右される。

それを利用した彼らは、今やトランプ氏の指示で動いている。下院議長もトランプ氏と昵懇だ。移民法やウクライナへの援助を含む法律が成立しないのも、選挙前にバイデン氏に手柄を立てさせたくないトランプ氏の意向が働いている。

さらに共和党自体が今や「トランプ党」だ。2020年の選挙結果を覆すために中心になって動いたのは共和党全国委員会だ。その委員長もトランプ派で、共同委員長はトランプ氏の義理の娘。共和党に入った寄付金はまずトランプ氏の裁判費用にまわる。

こうした中で、トランプ派ではない中道の共和党議員も黙らざるを得ない。トランプ氏につかなければ、自分も次は当選できないかもしれないからだ。