「外部」と出会わなければならなくなった

「身の丈」「ビオトープ(※)」とか縮小・縮減が定有堂の生息域・テリトリーでした。定有堂の身の丈の世界には「青空」があり、「ここから何かをはじめよう」という呼びかけはじつに簡明な響きだったのですが、青空は生成変化の中へ流動し、つまり本がなくなり「定有堂を知らない子どもたち」に語りかけるにも、もう残されたのは言葉だけになりました。身の丈の話ですから小さな声でしか語られないものです。

※編集部註:ビオトープとは、元々は生物学の用語で「生物群集の生息空間」を示す

定有堂の刊行物『伝えたいこと』には「小さな声を外部のものが解釈すると別のものになる」という(これは定有堂の心情ですが)キャッチコピーをつけています。でもこれからは「外部」と出会い始めていくのかもしれません。

閉店は現実のものであり、唐突に「外部」と出会わなければならないものでした。この外部とどう向き合えばいいのかわからずメディアの取材はすべてお断りしました。小さな声と大きな声の通路が見つからなかったのです。幸いご理解をいただき、静観してあたたかく見守られる中での閉店が実現できました。しかし「外部」はそんな思い悩みとは関係なしにやはり存在しました。

閉店を知らせる1枚のチラシが全国に拡散

このフォーラム(※)の案内を、実行委員の齋藤明彦元図書館長さんがSNSでしていました。「四月に閉じた定有堂の検証のお知らせ」とテーマを簡潔にまとめておられました。なるほど「検証」かと、指針と方向性に気づかせていただきました。

※編集部註:2023年6月25日に鳥取県立図書館が主催したフォーラム「定有堂書店『読む会』の展開」

「検証」というと事件の現場検証とか、仮説の検証とかものものしい感じがしますが、たぶん「記憶の整理」ということかと解釈しました。齋藤さんはかつて「棚卸し」という言葉をよくお使いになっていました。いらないものは整理し捨て去り、使えるものは整頓し役立てる、という現実主義的な行動原理であったかと思います。

戸惑いの中で外部には閉店の告知を避けていたのですが、店内レジ横に来店客向けに「閉店お知らせのチラシ」を最初に貼ったのとほぼ同時に、詩人の白井明大さんがSNSで簡潔に事実だけ告知されました。

驚いたことにこの一報で全国に情報が拡散しました。「なぜ? どうして?」という問い合わせが殺到するのが予測されたので、もう少し詳細な情報が必要なのではないかと、後追いで齋藤さんがチラシの画像付きで告知してくださいました。

この二つだけで「外部」に十分に情報が伝わりました。定有堂と深くかかわりのあった43年の間の知人が訪れてくれました。