鳥取市で43年続く本屋「定有堂書店」が2023年4月、閉店した。読書会やフリーペーパーを先駆けて取り入れ、日本中から書店員や本好きが足を運んだ独立書店の源流は、なぜ変わり続けることを選んだのか。店主・奈良敏行さんの著書『町の本屋という物語 定有堂書店の43年』(作品社)より、一部を紹介する――。
2023年4月に閉店した定有堂書店
撮影=萱原健一
2023年4月に閉店した定有堂書店

大きな書店よりは小さな本屋がいい

定有堂という本屋について、理論的に考えたことは、ありません。本が好き、本屋が好き、本屋が好きな人が好き、これだけだったかと思います。また、「身の丈」という言葉も好んで用いてきましたが、この三つが「本屋の身の丈」の中身だったと思います。

あるときから本屋は小さい方がいいと思うようになりました。そして往来にあり、袖が触れ合うような関係で普通に成り立つ、町の本屋を意識するようになりました。大きな書店よりは小さな本屋がいい、前者は空間本位、後者は人本位という意味で「本屋は人だ」と同義的に使ってきました。

ミニコミ出版、自分の工夫で本を集める、そして集めた本が読者の目に留まり、その工夫が発見されること、そうした本屋の中の本にはじまる小さな「驚き」、それを称して「本屋の青空」とも呼んできました。本にはじまるところのなにかが開ける「驚き」は、語り合ってみたいという絆を生み出します。読書会のはじまりはそんな「本の力」にあったかと思います。

大学院生と7時間近く話し合った結果

できたこと、できなかったこと、そもそも何をやりたかったのか、この43年の振り返りはまだ自分のなかでうまく形をなしていません。でもそういうことが今この場で求められているのではないかと思います。

定有堂のミニコミ出版物『音信不通』の最新号(第83号)にある大学院生が「定有堂を知らない子どもたち」というタイトルでエッセイを寄稿しています。今年一年の間休学に入りゲストハウスを中心に旅しているときに、繰り返し「定有堂が閉店した」とささやかれるのを耳にし、自分の目で確かめようと読書会に参加したのです。

しかしすでに店舗は閉店しており、ある意味「間に合わなかった」「遅れてきた」青年だったのです。この青年の求めに応じて読書会の翌日2人で7時間近く話し合いました。そして寄稿したエッセイの文末が、「定有堂は初めて、外部に直面している」という心に刺さる結びの言葉でした。