「後継者はいないのか?」への回答

ところで定有堂の小さな内向きの声は「外部」に伝わりにくいと思っていたのですが、いまだ戸惑いの中にあるわたしよりも「記憶の整理」がなされているという事実におどろきました。これはありがたい振り返りの指針でした。まずはこの外部の「記憶の整理」をたどっていきたいと思います。外部の三つの声です。

その一

まず最初に目に留まったのは、3月15日の「地方・小出版流通センター通信」で川上賢一社長が「後継者はいないのか?」という反復される問いに答えて、コメントしてくださっていました。

「元書店員だった友人は言います。『あれだけメッセージ性の強いお店を作ると、それはもう個性さえも通り越していて、おそらく誰もがあの枠に入ることは不可能というか、そもそも誰かに……と考えることが不毛です。奈良さんに始まり、奈良さんで気持ちよく終わるのが宿命かと思います』と」

最大の贈る言葉だと感謝しています。

奈良敏行さん
撮影=小林みちる
奈良敏行さん

定有堂とは「メッセージ性が強いお店」

定有堂の刊行物に『伝えたいこと』という書物があります。1998年刊行で著者は濱崎洋三先生、県立図書館の二代目の館長さんでもありました。定有堂教室「読む会」の創設者です。この本は川上社長のご厚意で現在も流通の中で生命を保っています。温かいお気持ちに、そして先ほどの言葉を拾い掲載してくださったことに感謝しています。

ここで心に刺さったのは「メッセージ性の強い」という言葉です。気になります。そしてここに定有堂にとって大事な何事かがあると思われました。「検証」という面で、定有堂が何であったか、この「メッセージ性が強い」という一言が入り口なのかなと思われました。

その二

本屋開業を志す人たちが、定有堂を訪れるきっかけになったことの一つに、1994年発売の『物語のある本屋』(アルメディア)があります。定有堂について長岡義幸さんがレポートしてくださっています。反響を呼んだ本です。その長岡さんが4月20日の「web論座」に定有堂閉店に寄せて記事をお書きになっています。