目標はいきなりパリオリンピック出場

本田監督の取り組みを身近で感じていた人がいる。「選手たちも美登里さんの言葉を聞いて行動していくうちにできることが増えていくし、そばで見ていても選手が変わってきていることがわかります。だけど、小さなこと一つひとつを根気強く示していった美登里さんは本当に大変だったと思います」と話してくれたのは就任当初、通訳としてチームについていたアリエヴァ・マヒリヨさん。

撮影=早草紀子
通訳のアリエヴァ・マヒリヨさん(中央)は、本田監督の取り組みにより、選手が変わってきていると感じている。

日本での「当たり前」が全く通用しない。すべてにおいて変換と工夫が必要だった。「ただロングボールを蹴って走るサッカーではなく、ちゃんと頭で考えよう。どうしてここにパスをするのか、他の選手はどう動くのか……。それはそれは丁寧に伝えました。ただそれを落とし込むミーティングも、長いと彼女たち飽きちゃうんです(笑)。だから極力短く、端的に。どこまで理解してくれているのか、最初は不安でした」

ウズベキスタンサッカー協会が本田氏へ示した目標は、なんと、パリオリンピック出場。アジアに与えられている枠はたったの二つだというのに。常にアジアのトップ争いに名を連ねるAランクに入る日本もリオデジャネイロ大会では切符を逃しており、険しく狭き門である。

日本の他にオーストラリア、北朝鮮、中国、韓国などがAランクの実力保持国。そこから少し実力差は開くが一矢報いる可能性を秘めているベトナム、チャイニーズ・タイペイなどがBランク。歩き出したばかりのウズベキスタンの現在地はまだCランクが妥当だろう。

「オリンピック出場なんて6年後くらいの話かなと思ったら、パリ大会だというんです。さすがに現実的ではないですけど、この限られた時間でもやりようによっては爪痕を残すくらいのことはできるんじゃないかとは思ってました」

本田氏の言葉通り、長らく変わることがなかったアジアの女子サッカーの勢力図をこの半年でウズベキスタンが塗り替え始めた。

2023年10月、中国で行われたアジア競技大会で、初出場のウズベキスタンはBランクのチャイニーズ・タイペイに競り勝ち、ベスト4入りを果たしたのだ。さすがに準決勝の北朝鮮戦では8失点を喫してその実力差を見せつけられたが、スポーツ大臣が激励に訪れるほどの快挙だった。

そして彼女たちの勢いは衰えることなく、その2週間後、自国で開催されたパリオリンピックアジア2次予選を突破してみせたのである。