マンガやアニメは世界に誇れる日本文化の一つだ。イスラーム学者の中田考さんは「『NARUTO』や『進撃の巨人』といった人気マンガに込められたメッセージは非常に東アジア的なもので、実はイスラーム圏の価値観ともかなり近い」という。中田さんと神戸女学院大学名誉教授の内田樹さん、トルコ国立マルマラ大学大学院助教の山本直輝さんの共著『一神教と帝国』(集英社新書)より、一部を紹介する――。
日本人は「エコノミックアニマル」と嫌われていた
【中田】今、トルコにおける東アジア研究のモデルケースをつくろうという、世界征服の計画を立てているんです。
【内田】世界征服……。文化戦略ですか?
【中田】そうなんです。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われていた時代は、ほんとうに日本が豊かだったんですが、今にして思うと、そのときに日本が世界によいものを残したのかというと、多分何も残ってないと思うんです。
その頃の日本人は実に精力的に世界中で日本製品を売りさばいていました。しかしその実態はというと、下世話な話になりますが、金を積み女を抱かせて現地の腐敗した政権に食い込んで利権を獲得して暴利を貪っていた。そんな日本人はエコノミックアニマルだ、と言われて批判され、まったく尊敬を得ていなかったんです。
唯一尊敬されたものがマンガとアニメ
【中田】もちろん中には例外的にいい人もいたのでしょうが、しかし構造的に見ると日本人は汚い商売をやるということでまったく尊敬されなかった。製品の質はよかったので売れはしましたが、それ以外に何もよいものを残さなかった。
今も日本が素晴らしいと言っている人間は、個別の事例を取り上げて「こんないい人がいた。こんないいことをした。それで日本は尊敬されていた」と言いたがりますが、全体としてはまさに今言ったように、むしろ軽蔑されていて、現地に何もよいものを残さなかったと言えます。
その中で、唯一尊敬されたものがあります。それが本書の第一章で話題に出たマンガとアニメなんですね。日本のマンガの特徴に無国籍があります。日本という特徴を出していない。どのマンガやアニメを見ても日本人らしい顔をしてないキャラクターが多く、日本ナショナリズムを主張していないわけです。