のだめもアニメでフランス語を覚えた
【中田】その一環として、中華文化圏の共通遺産である漢文文献を読むための共通語「古典中国語」と、現代東アジア文化を知る共通語「アニメ日本語」、この二つを語学の必修基礎教養科目として位置づけて、「東亜趣味者(オタク)トルコ系諸民族向けアニメ日本語」の教科書をつくろうと計画しているんです(教科書の草稿を手に)。
【内田】それが教科書なんですね。
【中田】はい。まさにそういう話なんです。これぐらい説明しないと分かってもらえないし、説明しても耳を傾ける人は少ないと思うんですけれども。
【山本】僕も今やっと分かりました。相変わらず考えがぶっ飛んでますね。アニメ日本語から広げる考え方は、ほんとうに面白いと思います。
【内田】『のだめカンタービレ』の中で、のだめがパリに行ったときに、フランスで放送している日本のアニメを観るんです。フランス語吹き替えなんですけど、のだめはそのアニメの熱烈なファンで、すべてのエピソードのすべてのセリフを覚えているので、フランス語でも意味が分かる。そうやってアニメの中のセリフとして丸ごとフランス語を覚えてしまう。
【中田】みんな覚えている。今のオタクってそういう感じですから。
ロボットアニメが「アラビア語の古典」に
【山本】アラブにはフスハーという正則アラビア語があるんですが、ちょっと前の世代の人は、このフスハーをクルアーンで覚えるよりも、なんと、まず『UFOロボグレンダイザー』で覚えているんですよ。これは永井豪原作のロボットアニメです。日本ではあまり有名になりませんでしたが、フランスとレバノンですごく人気だった作品なんですよ。
1970年代、80年代のレバノンは、吹き替えをしてくれる有名な俳優がたくさんいた時期で、彼らはみんなきれいなアラビア語がしゃべれました。一流の俳優がクルアーンで使われているようなきれいな文語で『グレンダイザー』の吹き替えをしていました。見てくれは『ちびまる子ちゃん』だけど、セリフは浄瑠璃とか能みたいなすごい格調高いアラビア語でしゃべっていたりするので、エリート層でもみんな観ていました。
『グレンダイザー』のアラビア語って、彼らにとっては古典なんです。でも、今の世代は吹き替えられたものではなくて生の日本語で聞いている新世代なんですよ。だからアニメ日本語がここまで普及したんです。
【中田】そうです。これが、ほんとうにこの10年間の新しい現象なんです。