アニメの最新話がすぐに国境を越える時代

【中田】さらに言うと、戦後日本のポップカルチャーが東南アジアを席巻するわけですが、それは戦前の日本ではありません。アメリカによって民主化された日本です。そのため日本のものというふうに意識されないままに、彼らに受け入れられていくんですね。

マンガやアニメだけでなく、ドラマや音楽、それに服装や街並みまで、西洋化された日本がモデルになっています。東アジアと東南アジアの都市部の若者たちの間で日本文化がモデルになった、というよりも、もはやもともと日本から来たものであることが意識されないぐらいにまで浸透しました。

そうした背景があって、次の転機になったのは2010年ぐらいです。その頃からインターネットがアジア・アフリカでも普及し始め、ネットで動画を観るようになりました。固定電話や地上波のテレビがないところでも、ネットで動画が観られる、という状況が生まれたからです。

それまでも日本のマンガやアニメは現地語に翻訳されて出版されたり、テレビで放映されたりして拡散し人気になっていましたが、本になったりテレビで放映されたりするまでにはけっこうタイムラグがありました。

ところが今のオタクがすごいのは、日本で放送されたアニメをその日のうちに字幕をつけてネットにあげるんです。世界の日本のアニメ好きの若者はそれを観る。つまり彼らはほぼリアルタイムで日本語を耳で聞きながら字幕を読んで日本のアニメを観ているのです。こうしてずっと日本アニメを観ていると、アニメを観ているだけで日本語を覚えてしまう若者が出てくるんです。

トルコ語は日本語に似ていて親和性が高い

【山本】そうなんですね。好きで熱中して観ているから吸収も早い。

【中田】はい。そしてそれが容易にできるのが、まず文化的に近い東アジア圏です。今でも韓国語などは、語彙ごいの半分ぐらいは漢字の言葉で、日本語もそうなので、慣れてくると分かるわけですね。で、もう一つがトルコ(チュルク)語圏です。文法構造がほぼ同じで統語論的に語順が一致するので、聞いていて、トルコ語の字幕を観ると、文法を習わなくてもほぼ意味が分かってしまう。こうしてアニメが日本の文化を世界に広めているわけです。

いっぽうで、中国の孔子学院や韓国の世宗学堂は文化とセットで教えている。でも、それはあくまでナショナリズムなんですね。我々はそうじゃなくて、国家を超えた「東アジアの文化」として、かつ言語の違う人々とのコミュニケーションツールとして、マンガやアニメを利用する運動を推進していきたいと考えているのです。