受け流してきた女性の一人としての反省
「わきまえた」女性たちが存在することで、「あの女性たちはとりたてて問題にしていないじゃないか」と自らの差別的な言動を正当化する男性たちのアリバイにも使われてしまう。圧倒的な男性中心社会ではこうした「受け流す」ことを「わきまえた」女性たちの方が「面倒くさくない」と評価され、重用される傾向がある。だからこそ、日本のジェンダーギャップ、女性たちが置かれている状況はなかなか改善しない。
実際、自民党の杉田水脈衆院議員は麻生氏の発言に関してXで、「言われた本人が何とも思わなかったらハラスメントでも何でもないのでは」とポストしている。彼女のこうした人権を無視した発言には今更驚かないが、こうした発言はハラスメントをする側、女性差別をする側の正当化に利用されてきた。
そこには私自身の経験もある。今よりも圧倒的に女性が職場で少数派だった時代、そして職場のジェンダー意識も人権意識も希薄だった時代、ハラスメントに遭おうが、見下されようが、下ネタを振られようが、差別発言を受けようが、受け流すしかなかった。いちいち抗議をすれば、「面倒くさい女」と見られ、仲間として見てもらえず仕事を任せられなくなることを恐れていたからだ。
結果的に、男女雇用機会均等法世代である私たちの世代が声を上げなかったことで、麻生氏のような言動は許され続け、勘違いさせ、温存されてきた。今になってもこうした差別的な振る舞いや発言がなくならないことに対して、私自身「あの時もっと声を上げていれば」という猛烈な反省がある。
ジェンダー平等の女性リーダーになってほしい
今回私がテレビで話したコメントを受け、同世代の企業幹部の女性からは、「私も過去にこのような発言に多々遭遇してきた中で、『受け流す力』を『アンガーマネージメント』とすり替えて自分を納得させてきた」というメールをもらった。だが、自身がリーダー層となった今、うまく釘を刺すことの重要性を認識し、それができるようになってきたとあった。
上川氏は「女性・平和・安全保障(WPS)」に力を入れたいと述べている。WPSとは、平和や安全保障の面で、女性の人権を尊重し、ジェンダー平等を進める取り組みだ。麻生発言よりも前に、上川氏がWPSを自身の重要な外交政策に掲げたというニュースを読み、女性が外務大臣に就任する意義を強く感じていただけに、このスルー対応は本当に残念だった。
現実から言えば、麻生氏の「引き」がなければ上川氏は首相にはなれないのだろう。だが、首相を目指すのであれば、誰のための政治なのか、もう一度考えてほしい。今の女性たちが置かれている状況を少しでも変えることができる立場にいるのだから。