「大したもんだぜ」から滲み出る優位性
麻生氏は容姿や年齢に言及しただけでなく、そもそも上川氏の指名を「カミムラヨウコ」と間違えている。それどころか、過去に川口順子氏、田中真紀子氏と2人の女性外務大臣がいたにもかかわらず、これまで女性の外相はいなかったと事実誤認の発言までしている。
故意ではないとは思うが、こうした発言は自覚なき差別、マイクロアグレッションの表れだと感じる。マイクロアグレッションとは日本では最近になって広まった概念だが、意図的かどうかにかかわらず、政治的文化的に阻害された集団に対する日常の言動に現れる偏見や差別に基づく見下しや侮蔑、否定的な態度のことを指す。
麻生氏が上川氏のことを褒めているつもりでも、名前を間違えたり、女性の外相が過去にいないという事実誤認は、意識の中に「女性には外交は任せられない、外相は務まらない」という仕事における性別による無意識の偏見があるのではないか。それが「大したもんだぜ」「やるねえ」という表現に繋がっている。
何より「上から目線」度に辟易とした人も多いのではないか。褒めながら、上川氏に対して、圧倒的な自分の優位性を誇示している。時々、男性の上司や経営層の中からも聞く、「女性の割にはよくやっている」という言葉や、女性の抜擢を自分の手柄のように「あいつは俺が引き上げてやった」という言葉と同じニュアンスを感じるのだ。
上川氏は「ありがたく受け止める」と発言
この麻生氏の発言に対して、1月30日の記者会見で問われた上川氏は、「さまざまな意見や声があることは承知しているが、どのような声もありがたく受け止めている」と発言した。
質問をした記者は女性だったが、日本のジェンダーギャップ指数が先進国では最下位、世界的に見ても後進国だということにも言及し、問題意識を持って問うていた。それだけ踏み込んでの質問だったにもかかわらず、上川氏はその問題意識に真正面から答えることなく、「ありがたく受け止める」と応じた。
さらに2月2日の参院本会議で立憲民主党の田島麻衣子氏から「年齢や容姿を揶揄するような発言になぜ抗議しないのか」と問われると、「世の中にはさまざまな意見や考え方があることは承知をしている」「使命感を持って一意専心、緒方貞子さんのように脇目も振らず、着実に努力を重ねていく考えだ」と答弁。質問に真正面から答えなかったどころか、再答弁は拒んだ。それほど上川氏にとって、「答えにくい」質問だったのだろう。