「受け流すのが大人」は女性につらすぎる
こうした上川氏の対応について、「大人の対応だ」と評価する声も多かった。だが、あえて私は上川氏の会見直後、テレビ朝日の「羽鳥慎一モーニングショー」で、「こうした上川氏の『受け流すような』発言は非常に残念だ」とコメントした。
同じようなことを言われても反論できずにいる一般の女性たちのためにも、大臣、しかも今や首相候補の1人と言われる立場だからこそ、チクリとでも反論してほしかったと。この立場の女性が受け流せば、同じような目に遭っても反論せず、受け流すのが「大人の対応だ」という間違ったメッセージになるとも話した。
同様の内容をX(旧Twitter)にもポストしたところ、インプレッション(表示回数)は53万以上に上り、8100もの「いいね」がついたが、反論も多かった。「上川さんに失礼だ」というものはさておき、「被害に遭った本人に声を上げろというのは酷だ」「被害に遭った側を責めるのはおかしい」というものが多かった。
職場で上司からこうした差別的な言動を受けた女性たちに対して、直接上司に抗議するべきだとは、私ももちろん言わないし、声を上げられない事情もよくわかる。だからこそ、企業や職場では通報や相談できる窓口が必要なのである。
だが、このジェンダー後進国で首相候補になるような女性大臣でも声を上げられない、抗議ができない、せめて皮肉の一つでも言えない国とは何なのか。むしろ今声を上げられない多くの女性を失望させることにならないのか。こうした目に遭っても受け流すしかない、受け流さないと望むポストにはつけないという誤ったメッセージを与えることにならないのか。とりわけこれから社会に出ていく若い女性たちに、絶望しか与えないのではないか。
思い出した「わきまえた女性」発言
一部報道によると、外相に上川氏を推薦したのは麻生氏だという。自分を引き立てて抜擢してくれた人に対して物を言えないというのは男性でも同様だろう。上川氏も仮にこれが野党の議員からの発言だったら、抗議したかもしれない。だが、女性初の首相候補と名前が挙がる人だからこそ、この問題に真正面から向き合ってくれることを、私たちは期待するのだ。
今回の件で、2021年2月に起きた森元首相によるいわゆる「森発言」を思い出した。「女性が入っている会議は時間がかかる」という偏見に続き、五輪の組織委員会の女性理事たちはその点「わきまえている」と言った、あの発言だ。
森発言のあと私は、「丸川珠代氏、山田真貴子氏…『わきまえる女たち』が築き上げた罪の重さ」という記事を書いている。
そこで私が言いたかったのは、政治家や経営者などリーダー層の女性たちが「わきまえる」ことは自らにとっては保身の一部かもしれないが、社会や他の女性たちに与える影響が非常に大きいということだった。だからこそ「罪深い」と書いた。