エッセンシャルワーカーが足りない

生活を維持するために必要な働き手の数を供給できなくなる「労働供給制約」は、シミュレーションでも取り上げた職種だけに起こっているのではない。こんな職種でも、といったところでじつは起こっている。

調査をしていた私たちも、驚かされることが多くあった。以降に挙げていくのは、あくまで一例である。

自動車整備士に代表されるような整備に関する仕事も人手が足りていない。ドライバー職種の人手不足はよく言われているが、ドライバーの人たちが「安全に、そして“普通に”車を運転する」ことを支えることすら覚束なくなるかもしれない。それは車に限らず、鉄道や飛行機でも同様の状況が広がっている。

鉄道やバスを運行するある会社は、次のように言う。

「鉄道の運転士は自動化でなんとかなるかもしれないが、最大の問題は保線作業員や電車の整備、駅の管理を担うスタッフの確保です。運転士の人数はじつは少数で、鉄道の運行に必要な人員の4分の3はこうした作業員や整備士たち。この人員が今、一番足りていないんです」

人が乗る、物を運ぶ機械を滞りなく運行させるための点検・整備という仕事が人手不足で機能不全を起こしたとき、それは私たちの生活が滞ることを意味する。

薬剤師も足りていない。とくに地方で深刻となっている。医療従事者というと病院で働く、医師・看護師・技師・さまざまな専門職といった医療スタッフが想起されるが、私たちの健康を支えるエッセンシャルワーカーがいるのは病院だけではない。さらに言えば、エッセンシャルワーカーと言われる専門職だけがいればいいわけでなく、そのエッセンシャルワーカーの仕事を成立させている多くの仕事があることも忘れてはならない。

副校長が“代打”で担任を持つ

学校の先生も足りていない。これも大きな話題になっているが、次のようなことが私の身のまわりでも実際に起こっている。

知人の小学生の子どものクラスに担任の先生がおらず、副校長の先生が“代打”を務めているそうだ。必要な先生を確保できず、致し方なく、本来、担任クラスを持たないはずの管理職である副校長が穴埋めをしている。

聞けば、こうしたクラスに年度の途中から新任の先生が着任することもあり、その場合には1年の途中で担任が代わるそうだ。クラス説明会では、「なぜうちの子が担任のいないクラスに選ばれたのですか」といった質問が保護者からは出たという(教員不足を嘆きたいのは副校長もだろう)。

問題は教員不足が、改善の兆しのまったく見えない状況で、一過性の問題ではないことだ。この傾向が加速すれば、数年後には「なぜうちのクラスに担任をつけてくれたのですか」という質問を、保護者がすることにもなりかねない。