人手不足は介護、建設、物流業界だけの話ではない。すでに自動車整備士や保線作業員、薬剤師、教員といったエッセンシャルワーカーの不足が深刻化しているだけでなく、私たちの生活の安全を直接守る警察官や消防士、自衛官のなり手が激減しているという――。

※本稿は、古屋星斗+リクルートワークス研究所『「働き手不足1100万人」の衝撃』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

2040年に1100万人余の労働供給が不足する

私たちリクルートワークス研究所が、2040年までに日本全体でどれくらい働き手がたりなくなるのか、労働の需要と供給をシミュレーションしたところ、次のような日本社会の未来の姿が浮き彫りになった。

① 2040年に1100万人余の労働供給が不足する
労働供給不足の規模は、2030年に341万人余、2040年には1100万人余。およそ現在の近畿地方の就業者数が丸ごと消滅する規模である。

② 労働供給は今後、加速度的に減少していく
社会における労働の供給量(担い手の数)は、今後数年の踊り場を経て2027年頃から急激に減少する局面に入る。2022年に約6587万人であった労働供給量は、現役世代人口の急減にともなって2030年には約6337万人、2040年には5767万人へと減少していく。

③ 労働需要はほぼ横ばい
社会における労働の需要量(消費量)は、今後も横ばい、微増傾向で推移する。労働需要が減少しない背景には、2040年までの日本社会においては高齢人口が減少しないことがある(高齢人口のピークは2040年代半ばと推定されている)。
高齢人口は医療、福祉業や物流、小売業など労働集約的な対人サービスに対する依存度が高く、こうした業種に従事する職種を中心に労働力の消費量は今後も増加する可能性が高い。

人材確保は最優先の経営課題

これから深刻化する労働供給不足は単なる人手不足論ではない。後継者不足や技能承継難、デジタル人材の不足などといった産業・企業視点からの問題ではなく、「生活を維持するために必要な労働力を日本社会は供給できなくなるのではないか」という問題なのである。

そう考えると、全国津々浦々で毎日のように報じられる、さまざまな業種・職種で人手が不足しているというニュースが、違った視点で見えてくるのではないか。

介護、建設、物流が足りていないことは言わずもがな。現場ではギリギリの状況が続いており、早晩、人手が足りないことに起因してサービス水準を切り下げることになるだろう。

介護現場の問題は私たちの生活の質(QOL)に直結する問題であるし、住宅の建設が遅れたり、宅配サービスが休日に届かなくなったりといったことは早晩起こる可能性が高い。建設や運輸の人材難の問題は、災害後の支援や復旧の遅れにもつながる。つねに災害と隣り合わせの社会である日本において、大きな問題となっていく可能性が高い。

観光・飲食に関してもまったく人手は足りていない。2023年の夏に九州に行った際、飲食店の経営者が、「もっとお客さんを入れられるんですが、これ以上入れると従業員が辞めちゃうので、今は完全予約制にして、さらに席の数を減らしてなんとかやっています」と話してくれたことを憶えている。

他方で、別のホテル経営者は、「またコロナみたいなことがあるかもしれないので、とにかく儲けられるうちに儲けないと従業員を養えない。今は従業員にちょっと無理してもらってでもお客さんを受け入れていますし、そのために臨時賞与を出しました」と言っていた。方針はまったく違うが、人手が足りていないことには変わりない。

インバウンドで盛り上がる観光や飲食業では労働需給が急速に逼迫ひっぱくしている。こうした状況が、人材確保を経営課題のなかで最も優先的に取り組まなくてはならないテーマとしている。

ヤマト運輸の配達員
写真=時事通信フォト
2017年2月28日、荷物を入れた台車を運ぶヤマト運輸の配達員。宅配便国内最大手のヤマト運輸は、インターネット通販の普及とともに急増している荷受量を抑制する検討を始めた。労働組合の要求を受け、ドライバー不足や長時間労働の常態化など労働環境の悪化に対応する