顕在化する警察官、消防士のなり手不足

例を挙げるなかで最後に取り上げたいのが、警察官や自衛官といった私たちの生活の安全を直接守る仕事の人手が足りなくなってきていることだ。警察官の不足はまだ顕在化していないが、じつは応募者数の急速な減少というかたちで、今後数年でまさに顕在化しようとしている大きな課題である。

たとえば、鹿児島県警では2014年度の応募者数は1025人。これに対して2023年度では387人(南日本新聞、2023年5月30日)。1025人から387人だ。私も思わず目を疑った。ここ10年で、じつに6割減となっている。

もちろん警察官に対するニーズの増減や定員の過不足もあろうが、警察官に対する必要性がここ10年で「6割減」になっていることは考えられず、率直に言って生活者の1人として不安としか言いようがない。

大阪府警では、2018年度に1万人台だった応募者数が2022年度は6789人と、こちらはここ数年で3割以上減ってしまっている(朝日新聞、2023年2月26日)。

都市部・地方部を問わず、このように警察官のなり手も急減している。警察官や消防士の不足も、今後大きな社会問題となっていくだろう。

警察官
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公務員の人材獲得が困難になっている

もちろん、人口動態の問題だけではなく、民間企業が働き方改革や賃上げなどを積極的におこなった結果として、公務員の待遇・環境面での魅力が相対的に低下していることも大きな原因だ。

しかし、そもそも思い出していただきたいのは、こうした民間企業の待遇・環境改善競争は若手採用難を背景に加速しているのだ。労働供給制約によって、民間企業における待遇・環境改善による若手の取り合いが加速し、結果としてその競争についていくことができていない公務員の人材獲得が困難になっている。そう、すべては労働供給制約によって引き起こされているのだ。

さらに、自衛官も同様の状態にある。2021年度までの10年間で応募者数は26%減少している。2022年度に9245人を採用する計画だったが、実際の採用者数は4300人程度で、大幅な“採用計画未達”となった。民間企業であれば採用責任者のクビが飛びかねない。

安全保障は言うにおよばず、災害対応でも存在感を増し、あまつさえ「防衛力倍増」と言われているが、今後の日本が供給できる人材の量で自衛隊のミッションは達成可能なのだろうか。

ここに挙げた職種は本当に一部に過ぎない。しかし、労働供給制約がどういった社会をつくろうとしているのかは想像いただけたのではないか。

私たちの生活を維持するあらゆるプロ・専門職、そしてそのプロたちを支える人すら足りない。企業は人材を取り合い、なんとか人材を獲得しようと、さまざまな競争が起こる。