好循環を生む「動じないフリ」

ここまでは強いメンタルを手に入れるための心理にスポットを当ててきました。それだけではなく、行動習慣からメンタルを変えることもできます。

刑事といえど人間ですから、正直ビビる場合もあります。しかし態度に出すとみっともないので、私は動じていないフリをするように努めています。

私は、35歳の若さで刑事課長になりました。「課長、殺人事件です!」と言われて「え、殺し?」と青ざめていたら、部下に示しがつきません。心臓のバクバクを隠しつつ、「わかった、どんな状況だ?」と冷静を装っていました。悠然と座ったまま話を聞き、「じゃ、副署長に報告してくるから」と言い残して廊下に出た途端、バーッと走っていました。

酒の席で部下から、「課長は、何があっても全然動じないですね」と言われることがありました。実際は動じている場合もあるのですが、褒められると嬉しいから好循環になって、自分が磨かれていきます。ヤクザが人を脅すときにビビらせようとするのは、動じている相手ほど言うことを聞くと知っているからです。ビビらないフリをすることはとても大切ですし、形から入ることなら、誰にでもできます。

溺れる者は藁をも掴むではありませんが、手に何か持っていると落ち着くことがあります。緊張しそうな場面で、お守りや家族の写真など、自分を落ち着かせてくれるアイテムを身に着けておくのも、お勧めです。発砲事件が発生して緊急出動する際、警察官は防弾チョッキを着込みます。体を守ってくれるのはもちろんですが、それがもたらしてくれる安心感も大きいのです。

緊急事態が起こってみんながアタフタするとき、あえてゆっくり行動することにも、心を落ち着かせる効果があります。ゆっくり歩いて席に腰を下ろし、ひとつ深呼吸をしてから策を練ります。特に組織のリーダーにとって、慌ててバタバタと走り回るのは禁物。上司がどっしり構えている様子を見れば、部下は安心できるのです。

そして、刑事は常に備忘録を持ち歩いています。捜査の状況を記録するためですが、私にとっては「ストレス日記」でもありました。「張り込みに失敗したかも」「無理な指示を出された。ムカつく!」などと、不安やイライラを吐き出す場にしていたのです。ストレスに感じることをノートに書き出すことで、自分と向き合い、ネガティブな感情をコントロールできます。

プレッシャーを口に出すことにも、同様の効果があります。プレッシャーに弱い人ほど、自分の弱みや悩みを隠そうとします。しかし、内に秘めておくよりも誰かに話してしまったほうが、気持ちはスッキリするもの。気の置けない聞き役をあらかじめつくっておくと、よりいいでしょう。

たくさんの犯罪者を取り調べてわかったことですが、人は自信がないとき、話す声が小さくなったり、声が上ずって早口になったり、多弁になったりします。すなわちウソをついたり、やましいことを隠したいときです。

これを逆手に取れば、動じないように見せる技術として大きな声で話すことが挙げられます。渋谷のハロウィンで注目されるDJポリスの選考基準のひとつは、「声が大きくて低いこと」。高い声の早口よりも、低い声でゆっくり話すほうが、人の心に響くことがわかっているからです。

そして警察官は、日常的に体を鍛えています。所轄署には道場が併設されていて、柔道や剣道の稽古を欠かしません。凶悪犯に立ち向かうために強靭な肉体が求められるのは当然ですが、体を鍛えることは精神力を磨くことに直結します。

武道や格闘技に限らず、筋トレでも構いません。体を鍛えて贅肉が落ちるだけで、見た目が変わってくるし、周りの見る目も違ってきます。それが自信に繋がります。気持ちの鍛錬も大事ですが、体を鍛えて外側から強くすることも大事。文字通り、心身を鍛えるのです。

厳しい状況に直面したとき、笑ってみることにも大きな効果があります。笑いのもたらす効果は科学的に証明されていて、よく笑う人ほど健康で長生きするし、メンタルも強いとわかっています。失敗談とて笑い話に変えてしまえば、心の負担は軽くなります。困難を笑い飛ばせるのは、気持ちにゆとりがある人なのです。

人生には、思いもよらないことが起こります。受験や就職に失敗したり、仕事でミスをしたり、誰しもいいときばかりではありません。特に、今は明るい話題に乏しく先行きの不透明な時代。メンタルが弱いままでは、「もうダメだ」と必要以上に落ち込んでしまい、生きにくくなるばかりです。

悪いことを少しでも前向きに捉える心の持ち方が、絶対に必要です。動じないメンタルを持てば、ビジネスも人生も先が開けていくのです。

(構成=石井謙一郎 イラストレーション=サガー・ジロー)
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