上司の無茶な要求、取引先から突然のダメ出し。不測の事態になると動揺してしまい、普段の力を出せない人はどうすれば心が安定するのか。修羅場をくぐった元刑事が動じない技術を語る。「プレジデント」(2024年3月1日号)の特集より、記事の一部をお届けします――。
敬礼する警察官
写真=iStock.com/akiyoko
※写真はイメージです

「刑事メンタル」はポジティブなフィルターしか持たない

私は千葉県警に27年勤め、そのうち20年を刑事として過ごしました。殺人や傷害などの凶悪犯、粗暴犯から、組織犯罪まで、多種多様な事件を担当しました。特に長かったのは、詐欺や横領といった知能犯を相手にする刑事部捜査第二課です。

殺人犯や薬物中毒者、暴力団員などと日常的に接するのが、刑事です。取り調べでは、こうした人たちに臆することなく向き合い、口を割らせなければいけません。

事件現場ではご遺体に接することもありますし、身内を亡くしたばかりの家族や動揺している被害者から、辛いお話を聞き出す必要もあります。精神的に強くなければ仕事にならないので、ちょっとやそっとでは動じない「刑事デカメンタル」を身につける必要があるのです。「刑事メンタル」は、普通の人たちのビジネスシーンや家庭生活にも役立ちます。パワハラ上司との付き合いや威圧的なクレーマーへの対応など、「自分に鋼のようなメンタルがあればどれほど楽だろうか……」と感じる場面が、日々たくさんあるからです。

みなさんは、物事をネガティブなフィルターにかけて見ることが、クセになっていないでしょうか? 刑事は、ポジティブなフィルターしか持っていません。どんな場合でもポジティブな要素は必ずあるものです。

たとえば、人質立てこもり事件の現場。追い込まれた犯人の心理は、非常にネガティブです。こうした事件を担当する捜査第一課特殊班には、専門のネゴシエーター(交渉人)がいます。彼らは警察大学校で特別な教育を受け、ネガティブな状況からポジティブなネタを見つける方法を学びます。

もし犯人に向かって、「こんなことをやってたら、刑務所行きだぞ」とネガティブな発想の声をかければ、さらにヤケクソにさせてしまいます。そうではなく、

「人質が無事なのは、君のおかげだ」
「いま投降したら、罪は軽いぞ」

と、少しでも気持ちを上向きにさせる言葉をかけるのです。

PRESIDENT 2024年3.1号

「プレジデント」(2024年3月1日号)の特集「気にしない練習」では、解剖学者の養老孟司さんが教える「毎日気分がよくなる『7つの習慣』」、高僧、牧師による「人間関係がスッキリする生き方大全」など、どうしても他人の目、他人との差が気になる現代ニッポンで自分らしく、気分よく生きるヒントをとことん集めました。ぜひお手にとってご覧ください。