強いメンタルを身につけるために欠かせないのは、成功体験です。その成功体験を得るために必要なのは、挑戦です。何かをやるかやらないか、またAかBかといった選択に直面したとき、難しいほうを選ぶ習慣をつけましょう。やらなければ結果が出ないのは当たり前だし、難しいほうを選べば、失敗したときに諦めがつきます。逆に、失敗するのが当たり前の場面で成功すれば自信になり、失敗したら失敗したで学びを得られるものです。もし苦手に感じているプレゼンがあったら、あえて買って出てみる。そこまでいい出来ではなくても「大きな声で話すことはできた」「途中間違えたけど修正できた」と、ポジティブ要素を見つけ出せばいいのです。

ネガティブになりがちな原因は、自信がないからです。「自分にはできない」と思い込んでいたのが、小さな成功の積み重ねによって「やればできる」という小さな自信が生まれてきます。その種はやがて何事にも動じない心に育っていくのです。

【図表】「動じない心」の基礎! ポジティブなメンタルをつくるには

「こいつは宇宙人」と感性を鈍らせる

では、動じない心を身につけるための具体的な方法を教えましょう。

まず第一に、感度を下げること。刑事の仕事のひとつに検視があり、水死や焼死などいろいろなご遺体に接します。かつて小学生の女の子のご遺体を検視したことがありました。ちょうど自分の娘が同じ年頃でしたから、どうしても重ね合わせてしまいます。しかし感情を揺さぶられて泣いていては、仕事になりません。

そんなときは、自分の感度を鈍らせるように努めます。「ここは映画のセットで、俺は検視を担当する刑事を演じているんだ」と思い込み、感情をコントロールするのです。

ビジネスパーソンが日々パワハラ上司と接していたら、メンタルが落ちていくのは当たり前です。そこは「はい、はい」と頷きつつ、「こいつはどこかの惑星から来た宇宙人だから、仕方がない」と自分の感性を鈍らせてしまえば、「この上司とずっと仕事をするわけじゃないし、反面教師だと思ってしばらく付き合うか」と、冷静になることができます。

覚悟を決めることも大切です。刑事時代に、抗争を続ける暴力団の事務所へ突入したことがあります。防弾チョッキを着けているとはいえ、私は現場の指揮官でしたから、先頭で入らなければいけません。逃げられない以上、もはや覚悟を決めるだけ。「撃たれても仕方ない。頭だけは外してくれ」と念じていました。

ビジネスシーンであれば、「ここで失敗したって、命まで取られるわけじゃない」と開き直れるはずです。覚悟を決めることで心が落ち着き、周りの状況がよく見えるようになります。

また、自分より格上の人や初対面の人と相対するときは、自然に腰が引けてしまうものです。こんなケースでは、心の中で「生徒と先生の関係に置き換える」といいでしょう。こちらは生徒。向こうは先生だと思って教えを乞うような態度で接すれば、ビビらずにすみ、相手を嫌な気持ちにさせることもありません。

誰かを守る立場になってみることも、効果的な方法です。警察官は市民を守らなければいけないので、自ずと強くならざるをえません。同じように、子どもを守る親や従業員を抱える経営者の立場に我が身を置けば、「メンタルが弱くて……」と縮こまってはいられないはずです。

他人の目を気にしすぎて、緊張してしまう場合もあります。そうなると「こんなことを言うのは恥ずかしい」「失敗したら笑われるのではないか」などと考えすぎて、勇気を奮って向かうことができません。私は変装して尾行や張り込みをした経験がありますが、環境に溶け込むコツは、自意識を捨てることです。他人は自分のことなど意外と見ていません。こちらが意識しすぎるせいで、かえって目立ってしまうのです。周囲から見られている意識をなくすことで、緊張は和らぎます。