注目されていないからチェック機能が働かない

文藝春秋社(現・文藝春秋)を興した菊池寛らが中心となって設立した日本文学振興会(現在は公益財団法人。財団法人は、一定の目的のために提供された財産を運営・管理するために設立された団体で、行政庁から公益認定を受けたものが公益財団法人)が芥川賞、直木賞などの賞を授与していますが、候補作品が発表され、さらに選考委員の審査によって賞が決まります。

マスコミの注目を集め、賞の受賞によって作家の人生は変わり、本の売れ行きにも勢いが付きます。文藝春秋が芥川賞や直木賞の85%を独占しているかと言えば、そんなことはありません。

書の入選者や特選受賞者の注目度は、芥川賞や直木賞に比べるとマイナーで、世間の関心が薄いので、チェック機能が働きません。

しかし冷静に考えると、読売書法会系の2つの書道団体が、公的な性格が強く、権威のある団体である日展の審査員、入選者、特選受賞者をほぼ独占している姿は奇異に感じます。

公正公平で、透明性の高い審査が必要な理由

多くの一般書道家は日展第5科(書)の実態を知らないため、「生涯で一度でもいいから日展に入選したい」という願いを込めて、日展に応募しています。こうした純粋な一般書家に、公正公平なチャンスがあるのでしょうか。

ほとんどの書家は自宅で開いている書道塾の月謝や、大学やカルチャーセンターの講師などの収入で細々と暮らし、栄誉栄達に無縁のまま書家人生を終えています。

日展に入選できるか否かは、書家の人生を大きく左右します。だからこそ、日展入選者の独占は許されず、公正公平で、透明性の高い審査が必須なのです。

2013年の日展第三者委員会の報告書に「日展は公募展であり、誰もが夢の入選をめざしてチャレンジするところである」と書かれており、日展のホームページの宮田亮平理事長の挨拶文のタイトルは「個性がぶつかりあって光り輝く日展を」です。しかし、実態がそうなっているのか、疑問が残ります。

日展の運営は、「官展」時代の文部省などではなくなりましたが、公共性が高い公益社団法人です。日展会員、日展理事になることが日本芸術院会員、文化功労者、文化勲章への道につながっており、大金をつぎ込んでも、それを上回る名誉、栄誉が得られます。

文化功労者には年間350万円の年金が終身支払われます。税金が投入される以上、厳正な審査で、優秀な人材を選ばなければなりません。