閉鎖環境で「13泊14日引きこもる」だけ
JAXA(宇宙航空研究開発機構)は11月25日、宇宙飛行士の古川聡さん(58)が研究責任者を務めた研究で、データ改竄、捏造などの不正があったと発表した。
記者会見で、JAXAは「公表に値する信頼性のあるデータが取得できず、研究成果も公表できない事態となった」と謝罪した。一体、何が起きたのか。
この研究は、2016年から17年まで5回にわたって行われた「長期閉鎖環境におけるストレス蓄積評価に関する研究」。宇宙の閉鎖環境を模擬した施設の中で、健康な成人8人に13泊14日過ごしてもらい、血液、尿、心拍、唾液などの生理データや、研究者による面談や精神心理状態分析を基に、ストレスを調べる、というものだ。
研究責任者に就いた古川さんは、東大医学部卒の医師で、1999年に飛行士に転身。2011年6月から5カ月半にわたって国際宇宙ステーション(ISS)で宇宙滞在した経験がある。来年、2回目の飛行をする予定になっている。
この研究は、開始前から世間の関心を呼んだ。
閉鎖環境下での宇宙飛行士の選抜試験の様子は、人気マンガ『宇宙兄弟』(小山宙哉、講談社)にも登場するので親しみやすさもあるが、特に注目を集めたのは、研究に参加する被験者への謝礼だった。
「38万円もらえるバイト」で話題になったが…
JAXAが外部企業を通じて行った被験者募集では、「協力費」、つまり謝礼は総額38万円。ここに多くの人が反応した。
「2週間ひきこもるだけで38万円もらえる」「宇宙兄弟ごっこをして38万円とは、おいしいバイト」などの投稿がさかんにSNSに投稿された。
約1万1000人が応募し、その中から42人が選ばれ、5回の実験の被験者になった。
だが、2017年の実験で、血液サンプルの取り違えが発生。それをきっかけに、JAXA内で調査を進めたところ、データの捏造や書き換えなどの不正がぼろぼろと出てきた。
不正は、面談や精神心理テストで行われていた。例えば、
研究者3人が被験者を面談してストレス状態を評定するはずだったが、2人で行い「3人で面談を実施」と記載した
ストレスの評価方法が曖昧なまま実験を開始し、最後までそのままだった
面談をしないで評価を行った
面談の評価の書き換えが多数あった
精神心理テストで、多くの計算ミスがあった
人を対象とする実験に求められる文部科学省・厚生労働省の倫理指針に抵触していた
JAXAの内部規定を守っていなかった
など、捏造やデータ書き換え、ルール違反などの不正が次々と出てきた。
ストレスに関する、はっきりしたデータが取れなかったため、「2回目以降はストレスに弱い被検者を選択する」と研究者が発言したことも、報告書に記載されている。