若手には平均137万円しか配分されないのに…

科研費は、研究者が応募し、専門家の審査を受けて採択か否かが決まる。新規採択率は3割以下と低く、東大、京大など旧帝大系の採択率が高い。著名で実績のある研究者が優遇され、若手に不利だとも言われてきた。

古川さんのような現役の宇宙飛行士が研究代表者に就いていることは、審査の際にかなりプラスに働いたものと思われる。

若手の不利を解消しようと、科研費には500万円以下の研究費を配分する「若手研究」部門も設けられている。だが、採択率は4割にとどまり、配分された研究費の平均額は約137万円だ。

JAXAは科研費を返還するかどうかを文科省と調整中だが、若手の平均額と比較してみると、いかにこの研究に多額の予算が注がれたかがわかる。

こうした問題はJAXAだけで起きているわけではない。

JAXAの研究不正が組織内で判明した頃、内閣府の大型研究でも問題が発覚した。

「失敗を恐れない」「年度ごとの予算にとらわれず、大型資金を出す」「ハイリスク・ハイインパクト」など、国の研究費の常識を覆すという触れ込みの研究事業「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT=インパクト)」でのことだ。

公募した16人のプロジェクトマネージャーに予算と権限を与え、さまざまな研究者や組織を集めて、研究テーマに取り組んでもらう。そのために550億円の基金を新設した。

問題になったのは、その中のひとつ、大手IT関連企業と大手製菓会社との実験だ。

実験室で顕微鏡を使用する科学者チーム
写真=iStock.com/RyanKing999
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「イノベーション」の裏で不透明な研究が増えている

この研究チームは、2017年1月に記者を集めてセミナーを開き、「高カカオチョコレートを4週間食べると、脳の動きが活発化し、脳が若返る可能性がある」と発表した。

製菓会社は新聞に大きな広告を出すなど、大々的に宣伝し、発表には内閣府の担当者も同席した。

だが、すぐに学術界やマスコミから批判が殺到する。

実験の基本中の基本である、「チョコレートを食べた人」と「食べなかった人」を比較していなかったからだ。信じられないお粗末さで、国会でも追及される騒ぎになった。

研究者側は「予備実験だったので、食べていない人との比較をしていなかった」と釈明した。だが、内閣府の検証会議では「予備実験でも比較を行うべき」「本来発表すべきデータではない」「バレンタイン商戦が始まるタイミングで発表が行われた。宣伝に利用したのではないか」などの指摘がでた。

結局、研究をやり直すことになったが、この研究には5年間で約30億円が投じられた。

2000年代に入ってから、政府は国の政策に沿った研究に多額の予算を注いでいる。

「イノベーション」を起こすために、組織の枠を超えた多人数での研究体制や、産業界との連携を推進している。

しかし規模が大きくなればなるほど研究チームなどの構造が複雑化し、全体像をつかみにくくなる。責任者の目も届きにくくなる。

JAXAのケースでは、不正を働いた研究者は2人だというが、1回あたりの実験に60人~80人の研究者が関わっていたという。