海外から「研究不正大国」と見られている日本
予算の大型化を後押ししたのは、政府が基金を作るようになった影響もある。
科研費も2011年度から一部を基金化している。年度ごとの縛りがなくなるので研究の進展に合わせて柔軟な運営ができる一方、チェックが緩くなるという問題がある。
産業界との連携のあり方についても検討すべきだろう。
JAXAも内閣府の研究も、大手企業と連携した。しかし、結局それが科学的裏付けを欠いたまま宣伝に使われたような形となった。現場の研究者の意識だけでなく、企業の上層部の判断が影響した可能性もある。それによって研究をゆがめては、元も子もなくなる。
実は日本は、海外から「研究不正大国」と見られている。
米国の非営利組織「リトラクション・ウオッチ」は、虚偽や間違いを外部から指摘されたなどの理由で取り下げられた論文を調べ、データベース化している。撤回数の多かった世界10位の中で、日本の研究者が半数を占める。
米国の著名な科学誌『サイエンス』も、2018年に「嘘の大波」というタイトルで、日本の論文撤回の多さを取り上げている。
まじめにコツコツというイメージが強かった日本人。研究者もその例にもれなかった。それが変わってしまったのか。
研究費を獲得するのが難しい中、今回の不正は重い
政府は、「科学技術立国」を推進しているが、「巨額の予算や基金」「産業界との協力」をアピールするばかりでなく、しっかりと評価をして問題点をつぶしていかないと、きちんとした成果は生まれない。
JAXAは「研究チームの体制に見合わない規模で研究を実施した」「組織、チームに医学系知識のある人が不足していた」ことなどを、今回の不正が生まれた要因として挙げた。
だが、学術界がそれを額面通りに受け止めるかは疑問だ。以前、東大教授からこんなことを聞かされた。
「日本の宇宙実験や研究の中には、レベルが低いものがある」
計画から実行まで時間がかかり、研究テーマが地上の実験より遅れがちな上、地上実験のレベルから見ると大した成果でなくても「宇宙では初めて」などとアピールできるからだ。
研究費獲得に四苦八苦する研究者の間には、宇宙実験に対する嫉妬、疑問、不公平感も積もっている。
そんな中、「宇宙でしかできない」と、宇宙実験の意義を「正当化」する最後の砦とされてきたのが、宇宙飛行士を被験者に、無重力などの宇宙環境を利用する医学やライフサイエンス研究だ。だが、その分野の地上研究でJAXAは研究不正をしていた。衝撃は大きい。
JAXAやチョコレート研究に投じた巨額の資金があれば、能力とやる気のある若手研究者をもっと支援することができたかもしれない。