「神戸ビーフ」というキラーワード

実際に動いてみてびっくりしたのは、とりわけプライドが高くて自国のものが一番と思いがちなヨーロッパの友人たちが、神戸ビーフだけはブランドとして一目置いていたことです。

レクサスが入ってきたときも、「たかだか大衆車のトヨタだろ? ポルシェやフェラーリにはなれないよ」と日本車にはまったく関心を示さない彼らだったのに、「神戸ビーフ」という言葉を出した瞬間に、「神戸ビーフはすごいブランドだろ、一度は食べてみたいんだよ」という反応が返ってきたのです。

これは驚くべきことでした。あのプライドの高いヨーロッパ人が、外国製品を褒めるなどということは、まずないのです。改めて、神戸ビーフのブランド力と潜在力を認識しました。

可能性があるのに、できていない。ここにビジネスチャンスがある。高い肉をもっと高く海外で売り、外国人に食べてもらえれば、生産者はじめ和牛を扱っている人に喜んでもらえる──。

「和牛調理のプロ」になる決意をする

安い和牛を大量に売りさばく仕事は、僕ではなく大企業にもできます。ただし、神戸ビーフをフェラーリのように丁寧に売っていくことは大手ではなく僕しかできない。それは、和牛の未来にとっても、絶対にいいことだという確信がありました。

そうなると、必要な学びはまた変わっていきます。僕は、単に肉を売るのではなく、自分で肉を切れるような状態になっていないといけない、と考えるようになっていきました。

教えてもらってある程度切れるようになってからは、部位を決め、とことん切るようにしました。例えば腕のトウガラシという部位に集中して、200本くらい切る練習をしました。部位的にはフィレに形状的にも似ているけれど、価格がとても安い部位です。これを自分で買ってきて、自分で切って、自分で焼いて、自分で食べるということを繰り返したのです。

すると、切り方によって味が違うことがわかりました。繊維の場所、切る角度などで、味はまったく変わるのです。また調理方法でもその存在感が変わる。そして、牛一頭一頭それぞれ味は微妙に変わる。

そのことをパッと見て、瞬時に判断できるようになるには、自分でとにかくやってみるしかないのです。それが、和牛のシェフになる、和牛の調理のプロになるということです。